小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

914 たまには後ろ向きで歩いてみよう 暮れなずむ遊歩道で

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昨日の夕方、いつもの調整池の周囲の遊歩道を飼い犬のhanaとともに歩いていると、上空が急に黒い雲に覆われ、雨のしずくが少しずつ落ちてきた。大したことはないと歩き続けると、西の空に1回だけ稲妻が走って、ゴロゴロという雷鳴がした。雷が大嫌いなhanaは、必死にリードを引っ張って家の方向に走り出した。慌ててhanaを制しながら西の空を見ると雲が切れ、茜色の夕焼けが広がり出した。師走の日曜日、暮れなずむ池の周囲は静寂に包まれている。 最近、hanaの散歩のとき「後ろ歩き」をするようになった。体は後ろを向いたまま足を反対に動かし、背中の方向に進むのだ。 幸い、調整池を囲む遊歩道には早朝、人影は少ない。犬の散歩の人と行き交うこともあるが、ごくまれだ。後ろ歩きは普通の歩き方よりも運動量が多く、カロリーを消費し血圧を下げる効果があると、以前、テレビの健康番組で見たことがある。 それを実行するようになったのは、同じ調整池の遊歩道で一時期毎日のように後ろ歩きをしている人を見かけたからだ。その人を見てテレビの番組を思い出した。私が後ろ歩きを始めてからその人は見かけないが、彼は1周約800メートルの遊歩道を全部後ろ歩きしていたようだ。実際にやってみるとバランスを取るのが難しく、けっこう疲れる。いままで使っていなかった太もも周辺の筋肉が痛い。 だが、毎日続けていると慣れてきた。少しずつ、歩く距離も伸びてきた。100メートル、150メートル、200メートルと伸び、いまは1周の半分、400メートルくらいまで後ろ歩きが平気になった。少しだけならジョギングのように走ることもできる。 後ろ歩きの効用は健康面だけではない。いままで普通に見てきた周囲の景色が新鮮に映るのだ。空を眺めると雲の動きも面白い。視界が広がったようにさえ思えるのだ。hanaはといえば、変な歩き方をするな、私がしっかり守らないといけないなと思うのか、後ろ歩きを始めると、道草をくうのをやめて私の前方を素直に歩き続ける。 雷の後の遊歩道でもhanaは私が後ろ歩きをすると走り出そうとするのをやめ、仕方なさそうに歩調を緩めた。 ことしは「前向きに」という言葉がかなり使われた。東日本大震災で落ち込んだ気持ちを何とかするためにも、ポジティブに生きることが大事だと言われた。だが、後ろ向き歩行を試してみて、たまには後ろを向くのも必要ではないかと気がついた。これまで歩いてきた道を振り返るのも悪くはないはずだ。 黄昏時、西の空は次第に茜色から墨絵の世界へと変化を遂げている。後ろ向きの私を引っ張って、hanaは黙々と歩を進めている。 (人通りが多く、自転車も通る道では後ろ歩きはできない。早朝の公園なら他の人に迷惑にならないかもしれない)