小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

826 松坂と職業病 勤続疲労にどう付き合うか

大リーグ・レッドソックス松坂大輔投手が野球選手生命の危機になっていると報道された。右腕肘靭帯を痛め、修復手術を受けることになったという。

かつて、野球の投手が肘を故障すると、ほぼ野球生命を断たれた。投手にとって肘の故障は肩を痛めることと同様、付きまとわれたら怖い職業病といっていい。肘の故障は米国で手術が行われるようになり、現在ではかなり高い確率で成功するそうだ。松坂も「トミー・ジョン手術」を受けるが、成功しても復帰までにはかなり厳しいハードルが待ち構えている。本人が語っているように「野球人生で最大のピンチ」なのかもしれない。

松坂は「何十年に一人の投手」といわれ、甲子園の優勝投手となって西武に入ってからもプロ野球のエース的存在として力を発揮した。レッドソックスに移る際の移籍金は61億円という驚くべき金額だった。日本での活躍からすると、それだけの価値があると判断されたのだ。

松坂は投球練習をかなり多くやって調整をするタイプという。しかし、大リーグに移籍した後の体は太る一方のようだった。だから投球練習よりも減量と下半身強化に力を入れ、肘に負担のかからない投球術を身につける必要があった。野球の専門家からすればいずれこのような事態になると予想がついたと思われる。松坂にそれをアドバイスする人はいなかったのだろうか。長く投げ続ければどこかに「勤続疲労」が出てもおかしくない。それを防ぐ手立てを考える必要があったのだが、後の祭りになってしまった。

ことし大リーグの日本人選手は、松井もイチローも調子が上がらない。岡島も2軍暮らしだし、まあまあなのは福留くらいだ。まるで3・11に落ち込む日本の姿を投影したような元気のなさだ。そして、松坂の故障である。

高校野球以来、順風満帆に歩んできた松坂にとっては、初めての挫折だと思われる。松坂の暗い顔を見れば、よく分かる。まだ30歳なのに、米国のメディアは「松坂時代の終わり」と書いたそうだ。そんな米国メディアを見返しして、復活してほしいと思う。

最近、肘の修復手術は成功率が高く、復活して活躍する選手も珍しくはないそうだ。手術から1年半程度のブランクがあるといわれるが、その間の厳しいリハビリに耐えれば、松坂にも復活の可能性がある。そのころには日本も3・11から立ち直る道筋を歩き始めているだろう。