小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

696 旅と食べ物 名古屋「ひつまぶし」

画像日本各地には、その土地それぞれの食べ物がある。通販制度が発達しているので、どこにいても欲しい物は手に入る時代とはいえ、やはり名物はその土地に行って食べるのがおいしいはずだと思う。 グルメではないので、旅行先で名物を食べようという意識は特にない。だが、今回の名古屋では、ホテルのすぐ近くに「ひ つまぶし」の店があり、つい飛び込んでしまった。郷土料理は面白い名前が多い。これもそれに当てはまる。 この日(9月5日)の名古屋は、猛烈な暑さで、9月のこれまでの最高気温(36・8度)を大幅に上回る38度を記録したのだ。朝の8時ごろには地下鉄の金山駅構内で81歳の女性が女に刃物で切りつけられて死亡する殺人事件も起きたというニュースを聞いた。午後、電車に乗ってこの駅を通過した。 「酷暑」という言葉が定着してしまったような、ことしの夏である。その暑さの中を歩いたせいで体はふらふらになっていたから、うなぎでも食べてみるかと思っていたので「ひつまぶし」の店はちょうどよかった。 「ひつまぶし」は、名古屋周辺のうなぎを使った郷土料理で、リンクした通り、かば焼きを細かく刻んだもので、3つの食べ方があるという。ビールを飲んで7、8分待っていると、釜めしのような容器に入った「ひつまぶし」が出てきた。店の主人が3通りあるという食べ方をていねいに説明してくれた。 1杯目は容器からご飯茶わんによそってそのまま食べる。2杯目は茶わんによそった中に、刻んだネギと青シソ、わさびという薬味を入れる。3杯目は刻んだ海 苔を乗せて、お茶漬けにする。なかなかいける。これを考案した人はアイデアがあると思った。1杯目も、2杯目も、3杯目もおいしかった。だからきれに食べた。さすがに全部を食べるとお腹がいっぱいになった。夏バテには効果がありそうだ。うなぎはいやだという人でもこれなら食べられるだろうと思っ た。 この夏、外を歩くときは熱中症に注意をしている。直射日光を避けて日陰を選んで歩きペットボトルの水をできるだけ飲む。しかし、この日、歩いた名古屋中心部の久 屋大通公園は暑かった。汗が次から次に出てくる。このようにたくさんの汗をかいたのは初めてだと実感した。こんな一日を過ごし、疲れた体がうなぎを求めたのだ。 「ひつまぶし」が考案されたのは1887年(明治20年)ごろといわれている。この年の1月1日に、いまの気象庁である中央気象台が発足、気象に関する正 確な統計を取り始めている。名古屋の夏は平均湿度が70%を超すことが多く、蒸し暑いのが特徴だ。冬は伊吹おろしが吹いて寒い日も少なくない「。ひつまぶ し」はこんな名古屋の気候風土に合った食べ物なのだろう。 食べ物とは全く関係ないが、名古屋市内を歩き、地下鉄に乗って気がついたのは中国人の姿だ。カップルや家族連れも目立った。一人で入った「ひつまぶし」の 店にも、先客に中国語で話す女性グループがいた。地下鉄でも中国語は聞こえるが、タモリがからかった名古屋弁は全く聞こえない。それは不思議な感覚だった。 仕事で友人、知人の何人かが名古屋に赴任するのを見ながら同情したものだ。魅力がない街と思い込んでいたからだ。しかし、彼らは「名古屋は住みやすくていい街だ」と名古屋の生活が満更でもないことを教えてくれた。今になって考えると、そうなのかもしれないと思う。だから、こんなに中国からの観光客が多いのだろう。(写真は名古屋港、この一角にある水族館も中国からのカップルが多かった)