小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

644 菅首相は救世主になれるか 就任演説オバマとの違い

94代の総理大臣、菅直人氏の所信表明演説が11日に行われ、12日の新聞にはその全文が掲載された。昨年1月に就任した米国の44代大統領バラク・オバマ氏の演説と比較して、国内重視と現実主義の姿勢が目に付いた。

演説は、冒頭の「はじめに」がいやに長い。自身の政治活動を振り返り、「身一つで政治参加した」と述べ、これまでの歩みを振り返っている。この後「改革の続行―戦後行政の大掃除の本格実施」「閉塞状況の打破―経済・財政・社会保障の一体的立て直し」「責任感に立脚した外交・安全保障政策」と3つの項目で具体的政策を掲げ、結びではリーダーシップについて触れている.

この演説で、菅氏は影響を受けた人物として元参院議員の市川房枝さん、政治学者の松下圭一氏(法政大名誉教授)と湯浅誠「反・貧困ネットワーク」事務局長、永井陽之助氏(東京工大名誉教授)らを挙げている。市川さんとは草の根型選挙運動をともにし、松下氏からは「市民自治の思想」を学び、湯浅氏と交流で「パーソナル・サポート」という考え方を知った。永井氏からは「現実主義の国際政治」について学習したという。市民運動から現在の民主党への歩みの背景には、こうした人たちとの交流があった。

菅氏は現在の日本を「閉塞した状況」と呼び、これを打ち破ろうという姿勢を明確に打ち出している。「後は実行できるかどうかにかかっている」(結び)というのもその通りだ。これまで国家レベルの目標に掲げた改革が進まなかったのは、政治的リーダーシップの欠如に原因があるとも指摘し、「本日の演説を皮切りに、順次ビジョンを提案してリーダーシップを持った首相になる」と言い切った。

身一つでの政治参加や閉塞状況の打破といったフレーズは、オバマ大統領の演説を意識したのではないか。「(米国)経済は疲弊している。さらに深刻なのは米全土に広がる自信の喪失だ」「60年足らず前だったら、地元のレストランで食事をさせてもらえなかったかもしれない父を持つ男が神聖な宣誓のために立つことができるのか」―などとオバマ氏は語っている。

オバマ氏と比べ菅首相の国際問題についての演説は、物足りない。「現実主義を基調として外交を推進する」と打ち出しているが、世界のためにどんな役割を果たそうとするのかよく分からない。鳩山前首相は、昨年9月、ニューヨークの国連本部で開かれた気候変動に関する首脳会合で、「二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスを、2020年までに1990年比で25%削減する」と演説したが、この国際公約はどうなるのだろう。

オバマ氏の演説について、私は「格調高い就任演説」とブログで書いた。では菅氏の所信表明演説はどうか。菅氏らしい理想よりも現実を前面に打ち出した演説で、格調高いとはとても言えない。それはいまの日本社会を反映したものと理解しても、あまりにも夢が少ないように感じた。現実主義者の菅氏は日本の救世主になることができるのだろうか。