588 永遠の日々への手伝い 映画「おとうと」より
山田洋次監督の映画「おとうと」を見た。吉永小百合と笑福亭鶴瓶が姉弟役を演じ、フラガールの蒼井優が吉永の娘役を演じる。「男はつらいよ」の「寅さん」を彷彿とさせる喜劇調の前半から、後半はがらりと変わって死がテーマになる。
吉永が鶴瓶のめちゃくちゃな生き方に怒りながら、つい面倒をみてしまうという映画のストーリーは、「男はつらいよ」の寅さんと妹のさくらとのやりとりを連想させるものだ。
この映画のモデルになったホスピス(余命短い人を収容し、終末期のケアをする施設)が、東京・山谷にある「きぼうのいえ」だ。訪問記を2007年2月22日のブログで紹介しているが、映画に出てくる「みどりのいえ」やその周辺の風景は、山谷そのものだった。
「おとうと」は、幸田文の同名の小説を1960年(安保闘争の年だ)に市川崑監督が映画化した。市川監督の代表作の一つといわれる名作だ。今回はそのリメイク版ともいえるが、現代性を取り入れ、「ホスピス」が登場する。
後半で重要な舞台となるみどりのいえは、通天閣が見える大阪(釜ケ崎のように見える)にある。ここで末期のがんに侵された鶴瓶が死を迎える。
難しく言えば「家族の在り方、別れ、死の迎え方、看取り」といったいつの時代にも共通する事柄を、山田監督はユーモアを取り入れながら、描いていく。悲しく、つらい映画なのだが、心にしみる何かがあり、ほのぼのとした気持ちになった。ラストシーンの吉永の義母役の加藤治子の台詞がいいのだが、それはここでは書かない。
ところで、きぼうのいえは設立して8年になったという。その歴史は山本さんの著書「山谷でホスピスやってます。」(実業之日本社刊)に詳しい。
山本さんと一緒にきぼうのいえを支えてきた奥さんの美恵さんとの出会いに触れている。映画では山本さんに当たるみどりのいえの代表を小日向文世、その妻を石田ゆり子が演じている。とりわけ石田の演技がいい。それは美恵さんの日常の姿そのもののように思える。
その明るくてさりげない演技を見て、山本さんが本の中で「いつもユーモアを大切にしながら、死をネガティブなものと見ないで、物質的な存在からの解放と見る」と書いていること思い出した。山本さんはきぼうのいえで既に100人以上の「旅立ち」を見送った。「肉体の衣を脱いでいく人々の、これから続く永遠の日々の最初の第一歩を踏み出す手伝いをしている」のだそうだ。