小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

570 冬の花・浅田真央と水仙よ

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全日本フィギュアの女子で浅田真央が優勝し、バンクーバー冬季五輪代表に選ばれた。不調を克服した浅田は、五輪でも活躍するに違いない。浅田には華がある。まさしく氷上に咲く冬の花である。

冬の花といえば、水仙だ。水仙は咲く姿に気品があり、浅田の滑りと共通する。そんな思いで朝の散歩をしながら、家々の庭で咲いている水仙を見た。懐かしい、既視感のような感情が蘇る。

江戸時代の華道に関する伝書『生花七種伝』という書の中に「陰の花(冬の花水仙に限る。賞美すべき花なり」と紹介され、水仙は陰の花(冬の花)とも呼ばれるそうだ。寒い季節に、可憐に咲く日本水仙は陰の花の代表格といっていい。

花には「陽の花、中庸の花、陰の花」という3つの区別があるという。陽の花は赤やオレンジ、黄色といった暖色系、あるいは大輪で華や、さらには香りが強い花がこの範疇に入る。バラやユリ、ランなどがそうなのだろう。中庸の花はピンク系(パステルカラー調)で、陰の花 は青、紫などの寒色系のほか白い花、淡い小さな花のことをいい、日本水仙もこの仲間に入るらしい。

もともと水仙という呼び方は中国から伝わったとされ、古くから「天にあるを天仙、地にあるを地仙、水にあるを水仙」とし、水仙は水辺で咲く姿を仙人にたとえたものだと考えられている。水仙の学名はNarcissusで、そのために「うぬぼれ」や「ナルシズム」とマイナスイメージの花言葉がつけられてしまった。

だが、外国では春の訪れを告げる「希望の花」の意味にも使われるそうだ。こちらの意味の方が水仙に向いているのではないかと思うのは、私だけではあるまい。

かつては、春から秋に比べると冬の花壇は寂しかった。そんな中でも水仙だけは、寒い冬の花壇で気を吐いていた。昨今は、温暖化や花の研究が進んだせいか冬用の草花も少なくない。

丈夫なパンジービオラが開発され、我が家の花壇にもパンジーが咲き誇っている。でも水仙は特別だと思う。子どものころ、我が家の庭先にも水仙が咲いていた。毎年、冬の日だまりの中で咲き続けるこの花が好きだった。

浅田が出場するバンクーバー五輪は来年2月12日から28日まで開かれる。水仙の花の期間はこれから3月ごろまである。バンクーバーは「花と公園の町」だという。五輪のころ、この町にも浅田らを癒すように水仙の花が咲いているのだろうか。