小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

390 フランス革命から220年 衰退する仏の新聞

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フランスのサルコジ大統領が、成人に当たる18歳の誕生日を迎えた市民には、向こう1年間新聞代を無料にするという政策を発表した。大統領は「若いころから新聞を読む習慣をつけないといけない」と語ったというが、若者の新聞離れ現象が日本だけではないことを物語っている。 ちょうど佐藤賢一の「小説フランス革命」が刊行中だ。この革命によって、フランスのジャーナリズムも発展を遂げたといわれるだけに、現代フランスの新聞の衰退には、時代を感じさせるものがある。 佐藤のこの本は、現在までに「Ⅰ革命のライオン」「Ⅱバスティーユの陥落」の2冊が同時に刊行され、この後8冊が順次発売され、全10冊の大長編になる予定だ。既刊の2刷は、革命初期を描き、中心人物として「ミラボー伯爵」が活躍する。佐藤はミラボーを「幼いころに天然痘の治療を間違えられ、破裂した膿庖が生涯の跡として刻まれ、初めて見た人間にはぞくと背筋が寒くなるくらいの瑕がある醜男」「貴族の家に生まれたが、放蕩貴族の見本のような男で、醜聞まみれの女たらしの売文家」と書いている。 もう一人の立役者である「ロベスピエール」もミラボーに追随する理想を求める弁護士として出てくる。彼は後に多くの人をギロチンに送る恐怖政治の中心になるのである。 フランス革命が起きたのは、220年前の1789年だった。佐藤は言う。「革命前のフランスと現代の日本は、未来に希望が持てない点が似ている。生まれ落ちた環境で職業が決まってしまうから、国民は国家財政の再建に協力しようとしなかった。芸術でしか立身出世が望めない時代にあって、ナポレオンまでが小説家を目指したそうだ。いまの日本も状況は似ている。いつも英雄待望論で終わってしまい、自ら変わった例がない。この小説が日本社会に良い刺激を与えられればうれしい」(週刊文春図書館)。 今後刊行される8冊で、佐藤はこの革命をどう描いていくのか。リズム感のある独特の文章は、読む者に間延びを感じさせないだろう。フランス革命の結果、パリには十数紙しかなかった新聞が1789年のうちに200紙を超えたというから、革命はジャーナリズム時代の幕開けを後押ししたといえる。 革命から220年が過ぎて、若者の新聞離れ現象が顕著になっているフランス。ほとんどの新聞が赤字経営で、軍需産業や有名ブランドの支援を受け発行を続けているのが実情だそうだ。それに加えて今度の政府の若者への新聞代肩代わり政策で、政府批判の記事掲載は期待できず、つまらない記事が多くなるに違いない。高級紙、ル・モンドは健在なのだろうか。日本も若者の活字離れはフランスと同様であり、サルコジの政策に無関心ではいられない。ジャーナリズムの衰退は、文化の衰退にもつながるからだ。