小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

387 オバマ新大統領はヒーローか 格調高い就任演説

米国の44代大統領に就任したバラク・オバマ氏の「就任演説全文」を新聞で読んだ。どの新聞も夕刊で1頁を割いて報じていた。

政治家の演説全文、特に日本の政治家のものは内容的にも格調が低く、読む気がしなかった。しかし世界が経済危機に瀕している時代によくも悪しくも、これまで自他共に世界をリードしてきた米国の新しいリーダーがどんな演説をするか興味を持った。

さすがに、格調が高い。演説のうまさでは傑出しているオバマ新大統領だが、それを文章にするとどうなるのかと注目していた。活字になった演説全文は、文章としてもなかなか優れている。朝日新聞は演説全文を4つに区分けしている。「直面する危機」「主導の役割」「奉仕の精神」「世界への責務」である。

「直面する危機」でオバマは言う。「経済はひどく疲弊している」と。その原因について「一部の強欲と無責任の結果だが、全体として困難な選択をして新しい時代に備えることができなかった結果でもある」と付け加える。そのうえで経済と同時に「深刻なのは米全土に広がる自信の喪失だ」と断言した。

「主導の役割」でも経済に触れる。「今回の危機は、市場は注意深く見ていないと、制御不能になる恐れがあることを思い起こさせた。また、富者を引き立てるだけでは、国は長く繁栄できないということも」。そして「米国は、将来の平和と尊厳を求めるすべての国家、男性、女性、子どもの友人であり、再び主導する役割を果す用意がある」と語った。

さらに「奉仕の精神」では「最も難しい局面を乗り切るのは、堤防が決壊した時に見知らぬ人を招き入れる親切心であり、友人が仕事を失うのを傍観するよりは自分の就業時間を削減する労働者の無私の心だ」と述べている。これは相互扶助の精神の大事さを訴えていると、私は受け止めた。

最後の「世界への責務」はやはり、米国が世界をリードする存在であることをあらためて強調している。それはこの言葉に明確に表れている。「今求められているのは、新たな責任の時代だ。それは一人ひとりの米国人が私たち自身やわが国、世界に対する責務があることを認識することだ」。

オバマ氏は44人目にして初めての黒人大統領だ。それゆえに「世界への責務」の中で「60年足らず前だったら地元のレストランで食事をさせてもらえなかったかもしれない父を持つ男が(大統領就任の)神聖な宣誓のために立つことができるのか」とも語っている。

最初に格調高いと書いた。たぶんに世界と後世を意識した演説だと思う。それは、日本の政治家の(残念ながら)貧弱な演説と比較すると、段違いに聞く者に訴えかけるものがある。ただ米国が世界を主導するという考え方は、他の国々が素直に肯定しにくいのも事実である。

いずれにしろ、混迷の時代、オバマ氏はヒーローになることも十分に考えられる。同時に大きな期待という重圧に押しつぶされる心配もある。演説するオバマ氏の瞳は意外にクールだった。それは、これから重荷を背負う男の孤独さを思わせた。