小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

371 「動」のときこそ「静」を 旅模様08年に思う

ことしも旅に明け暮れた。沖縄から北海道まで全国を歩き、海外にも出かける機会があった。ことしの生活を漢字で表現すると「動」といえるかもしれない。

イタリアの経済学者、パレートは「静かに行く者は健やかに行く 健やかに行く者は遠くまで行く」という言葉を残したという。(城山三郎著、嬉しうて、そして…より)遠くまで行きたいなら、焦らずこつこつと持続することが大切なのだと、城山さんは言う。来年の目標はそうありたいと思う。

 

この本は共鳴することが少なくない。とりわけ「エリートたちはなぜ堕落したか」というエッセーに惹かれた。この中で城山さんは書く。「批判し注目すること以外に、即効性こそないが、わたしたちにできることがある。日々の生活において、姿勢を問題にすることである」と。

 

続いて「金儲けだけを考え、音などを垂れ流しても平気という店や街や企業を拒否する。そうすることで、金儲け万能の風潮に歯止めをかける。報道の姿勢を問題にし、発表記事や提灯記事の目立つ新聞は斥ける。友を選び、人を選ぶにも、生きて行く姿勢を選びたい」と、姿勢がいかに大事かを説く。

それに続く「その延長線上に政治家を選ぶということが出てくる。……(途中略)わたしたちは受身の僕(しもべ)ではない。わたしたち自身がこの世では主役であり、主権者である」という民主主義の原則に立ち返ることを訴える結びを読んで、思わず、丸くなりつつある背筋を伸ばした。

以下に「静」とは縁のなかった私のことしの旅模様を記す。

1月 沖縄 ひめゆりの塔は3回目。いつも厳粛になる。沖縄の空気はやわらかい。人の表情も優しい。

2月 盛岡・八戸 凍てついた東北。盛岡の道路わきには雪があり、道路は凍っている。おそるおそる歩く。八戸のウミネコの島。人影は少なく、ウミネコの姿ももちろんない。 

岐阜県美濃加茂 ブラジル人が多い街。不況で彼らがどうなったか心配だ。 

秋田・田沢湖 美しい木造駅舎。スキーを途中でやめ、吹雪の中を熱い露天風呂に入る。首から上と下は別の世界。

3月 滋賀県近江八幡 仁丹の街。しっとりとした街並みに心が落ち着く。ホスピスを見る。     

神戸。日曜で人出が多く、食べ物も品がある。震災から完全に立ち直ったのだろうか。

4月 水戸 体に重い障害を負いながら、自立を目指しひた向きに生きる人たちと出会う。社会福祉はますます大事になるはずなのに現状は心もとない。

5月 富山 まだ続いていた富山の薬。子供のころ薬売りのおじさんから風船をもらった。いまも続いているよき伝統。

6月 半田。運河がある知多半島にあるしっとりとした街。「ごんぎつね」の童話作家、新見南吉はここで生まれた。 

御殿場 富士山の麓なのに天候不良で姿は見えず。障害者のグループホームを初めて見る。

7月 札幌。友人たちの再会に会話が弾む。この後訪れた夕張はうら寂しい。夕食に入った店は客がまばら。映画の看板が往時をしのばせるだけだ。

8月 鳥羽 海から山へ。空は真っ青。 

神戸 ことし2回目の訪問。神戸大で近代日本商船隊の歴史を学ぶ。

9月 ドイツ チェコ ハンガリー オーストリア スロバキア 中欧は城の街。歴史は長く、どの街も美しい。再訪したい都市ばかり。

 

焼津 この季節、天気はよくても透明度はなく、富士山は見えず。かつての遠洋漁業の街のにぎわいは、いまはない。

 

福島 稲穂が黄金色に。これが日本の原風景。

10月 長崎 中華街は横浜より規模は小さいが、味は負けない。高台のグラバー邸から見る長崎の街の美しさに酔う。 

中国・揚州・大連 中国は4回目。大連の変化は想像以上。出会った学生たちはひた向きに目標に向かっていた。

11月 神戸 なぜかことし3回目。地下鉄終点の街は紅葉が真っ盛りだった。中心部に戻り、少年事件被害者のシンポを聞く。 

島根県・浜田 初めての島根。盲導犬訓練センター、刑務所を見る。日本海側の天気は変わりやすく、浜田に向かう途中は雨。しかしいつの間にか晴れていた。

広島県尾道 しまなみ海道を通って因島に。通勤・通学用の小さな定期船に乗る。瀬戸内海。心が洗われる自然。ここも紅葉のシーズン。透明感あふれる季節を味わう。