小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

277 優しい時間 コーヒーとつるバラと

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梅雨に入ったような天気が続いた。昨日の土曜日は肌寒い休日だった。それがうそのように、日曜日のきょうの天気は回復した。庭に出るのもうっとうしいと思っていたが、久しぶりに気分転換を図ろうと、とっておきのコーヒーカップを取り出した。 庭の椅子に座って手挽きのコーヒーミルで、ゆっくり時間をかけて豆を挽く。後ろにある小さなアーチのつるバラの「アンジェラ」が満開だ。 手挽きコーヒーミルを使うようになったのは、実は理由がある。電動よりもコーヒーの味がいいのでいまもわが家は手挽きに凝っている。その理由は、3年前に放送された「優しい時間」というテレビドラマなのである。 ミーハーだなといわれそうだが、種明かしをしよう。このドラマを見た方は「ああなるほど」と思われるかもしれない。 「優しい時間」は「北の国から」の倉本聡の作品で、舞台は同じく北海道富良野。主人公の寺尾聡が営む喫茶店「森の時計」では、コーヒーを飲みにきた客は自分でコーヒーミルを使って豆を挽き、寺尾に渡す。豆を挽く客と寺尾の会話がいいのだ。ドラマではそのシーンが度々登場し、とても印象に残った。 それまでは、豆を買ったときに必ず挽いてもらっていた。その方が面倒ではなかった。だが、手挽きのミルを購入し試してみると、コーヒーの味が格段においしく感じられたのだ。 たしかに、忙しい朝の時間帯には面倒だ。ある時ミルが壊れたので、電動式を買って使ってみると、「おいしくない。深みがない」と家族からは不評だった。そこで再び手挽きを買った。以後、このミルが使われ、電動式は仕舞ったままになっている。
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時間をかけて挽いた豆で入れたコーヒーを飲む。カップは後輩からプレゼントされた有田焼。小さめで容器自体が薄くて繊細だ。一口飲んで、われながらうまく挽けたと自画自賛する。満開のピンク色の「アンジェラ」を見上げぼんやりしていると、わが家の飼い犬のhanaが珍しいものでも見るような顔をしてリビングから私を眺めている。彼女は「外の空気はうまそうだな」と言いたげな顔をしながら、時折、鼻をくんくんと鳴らす。 連休にはこのテーブルでビールを飲みながら椅子に座って本を読んだ。きょうは暑いので、読書はやめた。 庭の前にある遊歩道では、つかの間の晴れ間を惜しむように散歩をする人やジョギングをする人がいつもよりも多い。もう6月。間もなく梅雨に入るだろう。庭にはやぶ蚊が発生し、お茶やビールを楽しむ余裕はなくなる。ゆっくり「優しい時間」を送ることができるのは、きょうぐらいなのかもしれないと思う。 そんなのんびりした時間を送っていて、ふと現実に戻る。ミャンマーや中国で自然の脅威にされされた人たちを思う。多くの人たちが、平穏な日々を取り戻すことができるのはかなり時間がかかるだろう。そんなことが頭をよぎり、まろやかだったはずのコーヒーの味は少し苦くなった。