小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

122 バラの街 福山城が目の前に

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バラは世界共通の花である。その種類の多さは他の花を格段に引き離している。野ばらは別にして、病気に弱く、手間がかかる花であるにもかかわらず、愛好者が多いのは、やはりその美しさゆえであろうか。狭い庭にバラを植えてもう何年になるのだろう。手入れ次第で花の付き方も違ってくる。ことしはつるバラが元気だ。 つい先日、広島県福山市に初めて行った。そこで福山が「バラの街」であることを知った。なるほど、新幹線で下車すると、福山駅周辺でもバラの花が満開だ。市内を歩く。要所にバラが咲いている。あちこちに「バラ祭」のポスターがはってある。タクシーの運転手は「今度の土日がバラ祭りだが、ちょうどいい時期だね」と話している。福山はどのような理由で、バラの街になったのだろう。 インターネットを検索した結果、このような話に行き当たった。それによると、この街でバラづくりが始まったのは1956(昭和31)年のことであり、現在の「ばら公園」の付近に住む人々がバラの苗木約1000本を植えた。それ以来「ばらのまちづくり」が進められ、1985年4月1日に福山市の花に制定され、市内には約40万本のバラが植えられているそうだ。 面白いのはこの街出身の作家、島田荘司氏を選者とする「島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」を福山市が創設したことだ。 この賞は2004年に市内で「島田荘司展」を開催した際に島田氏が創設を提案したのだそうだ。「ばらのまち」という冠をつける以上、内容としては、この街のバラの名所を舞台に設定した作品が望まれるのだろう。 私は島田氏の作品を読んでいないが、自分の冠を取った賞をつくる自信は大変なものだと感心する。松本清張を筆頭とした社会派路線に対し推理小説正統の本格推理を目指し「新本格推理」というジャンルを切り開いた島田氏は大きな文学賞は受賞していない。しかし、いまはミステリー小説の大家である。あらためて、氏の作品を読んでみたいと思った。
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ところで、福山にはもう一つ見るべきものがある。JR福山駅の駅前といっていい近距離にある福山城である。1966年に再建された城は、多くの名城に比べたら姿、形は劣るだろう。しかし、新幹線の窓からすぐ目の前に見える城はここだけだけではないか。駅の改札口を出ると、すごそこにあるといった感じだ。それが福山城だ。1619年(元和5年)にこの地に入封した水野勝成が翌年から3年をかけてつくった近世の城郭だが、太平洋戦争時、米軍の空襲によって焼失したが、復元されたのである。 夕刻、1人で新幹線を降り城に行く。小高い城からは市内が見渡せる。しかし、城のすぐ近くには天守閣と匹敵するほどの高層のマンションが建っている。しかも、まだ明るいのだが高校生らしいカップルがあちこちで会話を交わしている。苔むした城という「情感」はあまり感じられない。それは駅前に存在する城の宿命なのかと思ったものだ。