小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

90 あなた買います再現の不可思議  西武球団の不始末

プロ野球パリーグの西武が東京ガス木村雄太投手と早稲田大学の野球部の選手に金銭を供与していた「裏金」問題に関して先輩から「あなた買います」という小説と映画があることを聞いた。古い話である。

プロ野球のドラフト制度がなかった時代である。元南海ホークススラッガーだった穴吹義雄の獲得をめぐるスカウト合戦をモデルにしたものだ。東都大学リーグ、中央大の4番打者で昭和31年(1956年)に当時としては700万円の破格の契約金で南海に入団した。その争奪戦の内幕を小野稔が「あなた買います」という小説にすると、これが流行語になった。

さらに小野の小説を松山善三が脚色し、小林正樹が監督して、同名の映画が撮影された。主演は佐田啓二で、出演者には伊藤雄之助大木実水戸光子岸恵子山茶花究ら懐かしい名前がある。

50年前ほどの事件がきっかけになって、ドラフト制度がつくられたはずだ。しかし、次第にこの制度も金のある球団の都合がいいように変わって行く。それはなし崩し的ともいえよう。「希望枠」だ。大学生以上が可能な逆指名という制度の導入だ。そんな陰で04年8月、明治大学一場投手(現楽天)への巨人と横浜の現金供与が発覚し、プロ野球は大きな傷を受けた。

それなのに、西武は一場事件後も木村投手らに金銭提供を続けていたというのだから、言い訳は通用しないだろう。有望な選手に目をつけ、金を払って将来「希望枠」で入団してもらうという工作なのだろう。これでは、社会人・大学選手を対象にした希望枠という制度自体の信頼性は全くない。分からなければ何をやってもいいという、昨今問題が噴出している多くの企業と同根だと思わざるを得ない。

社会をなめたこうした行為は、西武球団を危機に陥らせるものだ。黒岩前代表は、元スケート選手で冬季五輪の銅メダリストだが、西武球団の広報時代、大リーグに行った松坂投手の交通違反の身代わになって有名になった人物だ。今回の金銭問題は彼の代表時代に起きていたはずだ。新高輪プリンスホテル支配人を務める彼の弁明を聞いてみたい。

公式戦が間近に迫ったいまの時期になって西武がなぜ発表したのだろうか。どこかの報道機関がキャッチし、取材したからではないかと推測する。いずれにしろ「悪事千里を走る」(悪い評判はあっという間に広まってしまう)ということわざを西武だけでなく、プロ野球関係者は思い知る必要があるのではないか。