小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

628 奇跡の犬 病を克服したラブラドール・レトリーバー

画像 犬の散歩のときに、よく見かけるラブラドール・レトリーバーがいる。9歳の雄で、名前は「シオン」という。花の名前やスイスの都市名にもある。イスラエルの首都エルサレムのシオンの丘にはシオンという名の修道院があるという。

 だが、なぜ飼い主がこのような名前を付けたのか、特に聞いたことはない。 このシオンが病に侵され、車いすで散歩するようになったのは昨年の夏以降だった。 

 その姿は痛々しかった。だが、その後、あることをきっけかに、彼は病を克服する。それは奇跡のような話である。

 ウィキペディアによると、この犬種の名前は、カナダ・ラブラドル半島に由来するが、実際にはこの半島原産ではなく、ニューファンドランド島にいた「セント・ジョンズ・ウォーター・ドッグ」(現在は絶滅)と「ニューファンドランド犬」とを交配させて19世紀に誕生した種類だ。

 ニューファンドランド犬との誤解を避けるため、ラブラドールと名付けられたという。頭がよく、盲導犬介助犬などになっているだけでなく、家庭でもかなり飼われている。 しかし、ゴールデンレトリーバーと同じく、股関節形成不全(股関節が緩み、骨と関節の異常を引き起こす)やアレルギー性の皮膚疾患にかかる場合も少なくない。

 シオンはこの両方のDNAを持っていたようで、かなり以前から脚の部分が皮膚病(湿疹)になっていた。そして、次第に歩く速度も遅くなっていた。 昨年夏過ぎて、シオンは飼い主に介助され、後ろ足を車いすに乗せて散歩をするようになった。この犬種特有の股関節形成不全の病気のため、自力で歩くのが困難になったようだ。それでも散歩が好きなシオンのために、飼い主は車いすを購入し、ゆっくりと歩いてやる。そのシオンの姿は痛ましいものだった。

 それから、8カ月余り。シオンは自力で歩くことに挑戦するようになった。当初はいろいろな薬も服用してみたが、効き目はなかったという。そんな彼を自力歩行の挑戦へと駆り立てたのは「ライバル」が実現したことだった。 結婚して家を離れた飼い主の家の娘さんが、男の子を産んだのは昨年12月のことである。飼い主夫妻の子供はこの娘さん一人だけで、シオンはこの家で家族3人に囲まれ、大事に飼われていた。

 彼からすれば、この家族の中心は「僕だ」と思っていたのだろう。娘さんが結婚し家を出てからも、それは変わらなかった。 しかし飼い主夫妻に孫が生まれると、その状況が一変する。当然のように、孫が来れば夫妻は孫を可愛がる。それを見てシオンは嫉妬するかのように「フン!」という感じの顔をする。それが度重なる。すると、それまで車いすでしか散歩できなかったのに、ふらつきながらも自力歩行を試みるようになったというのだ。

 そして次第にその距離は延び、最近は車いすの必要はなくなった。「赤ちゃんにばかり注目しないで、私の方も見てほしい」という一心なのだろうか。 飼い主は「薬は効かなかったのですぐにやめました。それなのに不思議です。赤ちゃん効果でしょうか」と言う。飼い主の言うように、新しい命に対し対抗心を燃やした結果、病を克服したとするなら、動物には不思議な生命力があるといえるだろう。画像

 蘇ったシオンは公園で飼い主のリードを引っ張り、自由に歩き回りたがる。その姿は、まるで別の犬に生まれ変わったように見える。 追記 飼い主にその後聞いたところ、シオンの名前は「紫園」の日本語が由来だそうだ。 (写真は1、ウィキペディアより2、病を克服したシオン)