小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

206 義足のランナーに五輪資格を 両足障害の21歳の青年の活躍

 陸上競技の世界で、健常者の一流ランナーに近付きつつある義足のランナーがいる。本人は来年の北京五輪で健常者と一緒のレースに出場することを熱望しているが、国際陸連は認めない公算が大きいそうだ。「義足が競技に有利に働く」という声もあるが、私は出場を認めればいいと思う。

  報道によれば、この義足のランナーは、南アフリカオスカー・ピストリウス(21)だ。先天的にひざから下がないピストリウスは、両脚に義足をつけて障害者の陸上競技では100、200、400㍍の3種目で世界記録を持つ。

  驚くのは、200メートルで21秒58の記録を出し、健常者の一般レースでは400㍍で南アフリカ選手権では2位に入り、7月のローマの大会では北京五輪標準記録B(45秒95)に0秒95まで迫る46秒90の記録を出した。こうした記録を出したピストリウスは、次の目標は北京五輪の一般400㍍への出場だという。素晴らしいことだ。

  だが、健常者のランナーは「義足は長すぎるし、カーボンの反発力も大きい。人間は機械には勝てない」と、義足のランナーとの競走に疑問を呈する。国際陸連にも「バネや車輪など他選手より有利になる人工装置の利用を禁止する」規定があり、彼の一般五輪への門戸を開くことに否定的だという。

  国際パラリンピック委員会は「より多くの意見を集めて結論をだすべきだ」という見解だ。当然だろう。たしかにピストリウスは義足という器具をつけて走っている。しかし、それは彼の体の一部であり、彼のこれまでの鍛錬が一般ランナーを脅かすまでに記録を伸ばしたのである。

  一度五輪への門戸を開いてみたらどうだろう。それは、北京五輪の最大の呼び物になるに違いない。その上で、あらためてルールを考え直せばいい。メーカーはスパイクなどスポーツ競技用品の開発競争を続けている。それは義足の開発なんて足元にも及ばない。そうした背景をみれば義足を問題視することは妥当ではないと思うのだ。

  この社会は健常者も障害者も同等の社会のはずだ。ピストリウスの活躍は、この基本的な考え方を私たちに教えてくれているのである。

  追記(1月17日) 国際陸連(IAAF)は14日、ピストリウスが使用するカーボン繊維製の義足は人工的な推進力を与え、競技規則に抵触するとして健常者のレースでは使用できないとの決定を下し、ピストリウスの北京五輪出場の道は閉ざされた。残念なことである。国際陸連は「地面から強い反発力を受ける義足で走るピストリウスは、健常者より約25%少ないエネルギーで同じ速度を維持できる」と説明しているが、障害者は一般レースに出る道はないのだろうか。