小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

179 瓦屋根と白壁 岡山・真庭「日本の原風景」

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 瓦屋根の民家は、一様に白壁づくりで、秋の柔らかな日差しに輝いている。周囲には黄金色の田んぼが広がる-。「ヨーロッパの田園地帯よりも、こちらの方が落ち着きませんか」と、地元の人に言われる。私も相槌を打つ。初秋を迎えた岡山県津山、真庭市を初めて訪れた。

 真庭市は、鳥取県堺にあり、市の一部は大山隠岐国立公園蒜山(ひるぜん)高原が占め、リゾート地として関西では知られる存在だ。2005年に勝山町や落合町など9つの町村が合併して誕生した。東西30キロ、南北50キロの広がりがあり、総面積は828平方キロ。岡山県の11・6%を占める広大な市だ.。市役所がある勝山地区には、寅さんロケの記念碑も建っている。 先週、新幹線を乗り継ぎ、岡山からローカル線の津山線に乗り換え、真庭に向かった。各駅停車で1時間半、終点が津山だ。

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 のんびりとした時間だった。窓外に広がる風景を見たり、目を瞑ってうつらうつらしていると、時間のたつのも忘れる。乗客はまばらだった。 津山市真庭市は、私はそれまで知らなかったが、山田洋次監督、渥美清主演の人気映画「男はつらいよ」の最後の作品48作目「寅次郎紅の花」のロケ地として選ばれた自然の美しい地区だ。

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 津山市は、横溝正史の小説「八つ墓村」のモデルにもなった、おぞましい30人殺人事件の「津山事件」(1938年5月21日)があった地域でもある。それはもう遠い昔のことであり、いま津山は寅さんの方が有名だ。 津山から真庭にかけての民家は冒頭に記したように、瓦屋根に白壁がほとんどだ。鳥取に近付くにつれ、瓦屋根は普通の黒と灰色の中間色から、遠州瓦といわれる赤瓦が少しずつ増えてくる。瓦と白壁の家々が続く光景は、日本本来の美しさだといえる。 それは地元の人がいうように、ヨーロッパの地方にひけをとらない自然にマッチした美しさなのだ。

 蒜山(ひるぜん)高原は空気が澄んでいて、さわやかだった。スキー場のあるというこの高原には、いま別荘が次第に増えつつある。大阪や神戸の人たちが建てたようだ。しかし、別荘の背景には蒜山の山々と、遠くに大山が見え、別荘はやはり違和感があるといわざるを得ない。開発の規制が遅れたために、高原の景色は少しずつ変化しているのだ。近い将来、別荘の規制問題がこの高原でも課題になるのではないかと予感した。

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 真庭に大阪からUターン、Iターンしたという人に会った。彼らは地域に溶け込み、生活を楽しんでいた。「遊んでいるわけには行かないので、いろいろ仕事をしている」という。 健康に自信をなくして都会から移り住んだという男性は、顔は真っ黒に日焼けし、持病の心臓の病気を忘れてしまうくらいだと笑っていた。田舎暮らしを目的に移住した人々が真庭や津山には増えているのだ。

 昔の大庄屋の自宅にUターンした人の家は15部屋もあるが、普段は夫婦2人の生活だ。この家の主は「孫が遊びに来る夏休みや冬休みには一気ににぎやかになり、それが楽しみです」と話してくれた。 田舎の原風景を感じ取ることができる地域、それが真庭である。