私の子どものころの日本は、夜はいまのように明るくはなかった。というよりも、街灯は少なく、冬空に輝く星は美しく見えた。(写真はロトルアの温泉に面した湖)
しかし、大都市に住む現在はそうした星空を楽しんで見ることはなくなった。そして、夜空を見上げながら抱いたさまざまな空想の機会も、もちろん少なくなった。ニュージーランドを旅し、子ども時代と同じような輝く夜空を体験した。寒さに震えながら見た南十字星(サザンクロス)はいまも脳裏に残っているのである。
ニュージーランドの北島にロトルアという温泉の町がある。そこで17ニュージーランドドルを支払って、温泉に入った。水着着用で男女混浴だ。温泉の7つある浴場のすぐわきには湖がある。
北海道の支笏湖畔にある丸駒温泉を思い出す。雰囲気が似ているのだ。違うのは、入浴者が前者は日本人のみで、後者は地元のニュージーランドのほか、オーストラリア、アメリカ、フランス、中国、韓国、そして日本と国際色豊かなことだ。そして、若い外国人女性の水着姿に当方は目のやり場に困ってしまう。何ヵ所かの温泉に入ると、外気は寒くても体はぽかぽか温かくなった。
(ロトルア湖)
温泉から出て、食事をした後、星空を見るため、ロトルア市内から車で約30分走った小高い丘にある牧場兼民間天文台に行った。真っ暗な牧場を歩き、星観測ポイントに行く。少しロトルアの灯りが見える。空を見上げる。3分の2以上が雲に覆われている。
しばらく待つ。さそり座が姿を現す。そのわきには大きく輝く木星(ジュピター)がある。1時間が過ぎてもだれもが見たいと思っている南十字星は雲に邪魔をされ姿がない。寒い中を我慢したが、夜も11時がすぎ、あきらめざるを得なかった。
車に乗り、町中に戻る。「もう一ヵ所、観測ポイントがあるので案内します」と言われ、港の岸壁に行く。車を降り、空を見上げるとポインターといわれる2つの星の斜め下に4つの星があった。
「あれです。あれがサザンクロスなのです」。案内役の男性の声が大きくなった。その通り、夜空は輝き、南十字星が私たちに「どうだ」といわんばかりに威圧感を持って迫ってきた。翌日、ニュージーランド一の都市、オークランドでも南十字星を見ることができた。
(南十字星ミッションより)
この星を見たのは初めてだった。サザンクロスという名前の通りの形をしている。隣にはニセ南十字星がある。ダイアモンドクロスともいうのだそうだ。日本に帰り、また忙しい日常に戻った。冬になったら、夜空を見上げたいと思う。南十字星は見えなくとも、必ずやニュージーランドの感動を思い出すだすことができるだろう。
南十字星(サザン・クロス) 豪州とニュージーランド両国の国旗にも記されており、1~3等星で構成された南天の夜空で最も有名な星。両国のシンボル的な存在だ。天の川の中にあり、二つ並んだ一等星(ポインター)の延長に位置している。4つの星が十字の形をしていることから、1627年にフランスのロワイエが名づけた。大航海時代に有名なヴァスコダ・ガマが目にしていることでも知られている。南十字星を利用すれば天の南極の位置が分かるため航海上極めて重要な役割を持っており、その形からキリスト教徒のシンボルともいわれ、南天の空で一番の人気を誇る。(2007.9.10)