小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

149 懐かしき名画の街 夕張にて

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 かつて、石炭の街としてにぎわった夕張を再訪した。もう5、6年前になるが、札幌に勤務した当時、この街に行き、その寂しさに胸を痛めたことが忘れられなかった。 夕張メロンは知られている。が、ゴーストタウンのような思いをこの街で味わったのだ。台風の影響で、夕張は強い雨が降っていた。

 車は行き交うが、外を歩く人はほとんどいない。日本の過疎地域典型の姿がここでも見られた。 観光で行ったわけではない。何しろ、夕張の観光といえるものはあまりない。もちろん、北海道では珍しくない温泉もあるし、冬ともなれば、スキー場もある。泊まったホテルもスキー客用にオープンしたものだった。 市の財政が破綻し、再建団体になったことは多くの報道で知られている。そこで、再建を応援しようという目的で開かれたフォーラムに参加したのだ。

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 日本のいいところは、夕張のように、問題が起きると全国から支援の手が差しのばされることである。災害地にはボランティアが詰め掛ける。夕張も例外ではない。フォーラムに集まった医療・福祉関係者は、これからの夕張に多大な支援をするだろう。 朝、ホテルから出て、歩いてみた。

 私の記憶では夕張でつい最近まで話題を集めたのは「夕張映画祭」だった。1990年から昨年まで続いたこの映画祭は、日本の過疎地域で開かれたにもかかわらず、夕張を映画好きに浸透させる大きな力を発揮した。 しかし、財政破綻のため、昨年で中断、ことしは開催されなかった。この火を消してはならないと、来年にはNPOの主催で再開することが決まったという。

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 私の朝の散歩で目に入ったのは「夕張キネマ街道」という標識だった。ゆっくりと歩く。「帰らざる河」「史上最大の作戦」「ローマの休日」「太陽がいっぱい」「日本侠客伝」「網走番外地」「男はつらいよ」「悲しき口笛」「狼よさらば」「用心棒」-。

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 次から次にと懐かしい洋画、邦画の看板が目に飛び込んできた。人はいないのに、こうした映画の看板だけがこの街のかつてのにぎわいを想像させてくれる。 この街を舞台にかつて山田洋次監督の「幸福の黄色いハンカチ」が撮影された。そのロケ地はいまも、観光資源として保存されている。際立った観光資源はない夕張だが、この街に足を踏み入れると、なぜか落ち着く。心に残る街なのである。

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