小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

141 初めての島 沖縄・阿嘉島にて

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 沖縄・慶良間諸島の中央にある阿嘉島に初めて行った。この島はダイバーには人気があるが、そう多くの人には知られていない。私はダイビングには全く興味がないのだが、島を歩いて人はなぜ海に潜るのかを少しは理解できた。 阿嘉島那覇市から約40キロ離れた4平方キロの小さな島だ。人口は約350人。島民の多くはダイバーや釣り客用の民宿やダイバー船で生計を営んでいる。

 島がある座間味村には、このほか座間味島慶留間島外地島があり、やはりダイバーが多いようだ。 阿嘉島は美しい。しかも周辺の海域は透明度が高く、大規模なサンゴ礁が広がっている。大型台風4号が直撃した直後に島に渡ったため、高速フェリーは大揺れだった。

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 那覇から1時間弱という比較的短い乗船時間だったので、幸い船酔いはしなかった。フェリーが着くと、島にあるサンゴ研究で知られる阿嘉島臨海研究所の研究者と保坂理事長が私を迎えに来ていた。研究者は真っ黒に日焼けしていて、私はダイバーの1人かと思ったくらいだ。

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 元々ダイビングの趣味を持つ保坂理事長が私財を投じてつくった研究所だ。サンゴを研究するならこの島にと決めていたのだそうだ。1989年に念願の建物を建てた。鉄筋コンクリート4階建ての白い壁の建物は島のほかにはないモダンさを誇っている。 研究所が取り組んだのはサンゴの増殖で、いまでは産卵した卵を使ってサンゴの飼育法が確立し、付近の海でサンゴを育てている。しかし、こうした研究は、自然との闘いでもある。先日沖縄を直撃した台風4号によって、2年目のサンゴは手ひどい打撃を受けたというのだ。研究は挫折の繰り返しといえる。

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 朝、島の高台まで散歩をする。道の脇には台風で倒れた樹木が目立つ。汗をかきながら20分近くで頂上まで到着した。そこから見る海はどこまでも青い。付近にはだれもいない。しかし沖縄特有の大きな鳴き声のセミがうるさいくらいに聞こえる。 海辺に戻り、1人で眺める海はいい。時間がすぎるのを忘れて海を見つめた。この慶良間の島々で、太平洋戦争末期、多くの島民が米軍に追い詰められて集団自決をした。戦争は平和な日々を送っていた人々の日常を破壊し、美しいさんご礁の島を悲しみの島にしてしまったのである。(2007.07.16)