小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

128 育て、元気にと祈る 盲導犬訓練センターにて

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 盲導犬は「無私の精神」で、目の不自由なパートーナーと日常を送っている。かつて沢口靖子が主演したNHKのドラマ「盲導犬クイールの一生」で、盲導犬の重要性を認識したことを覚えている。 しかし、あれほど評判を呼び、映画にもなったにもかかわらず、盲導犬は依然少ないと聞いて、この日本はまだ健全ではないなと思うこのごろなのだ。

 なぜ、このようなことを書くのか。実はつい先日、横浜にある盲導犬訓練センターを見学してきた。このセンターは、盲導犬訓練士として、知られる多和田悟さんが所属するセンターである。 東横線綱島駅からタクシーで約15分。郊外にセンターはあった。途中、住宅街を抜け、畑を見ているとセンターに到着した。

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 センターに併設された盲導犬訓練養成学校があり、若い学生たちが教官とともに盲導犬候補の犬たちの訓練をしている。この訓練の責任者が多和田さんなのだ。30倍もの競争率を突破して入学してきた学生たちの表情は輝いている。目の不自由な人たちのパートーナーを育てる目的意識に燃えているに違いない。

 消毒をして、白衣を着て生まれて間もない子犬(ラブラドール・レトリーバー)の飼育室に入った。20匹近くいる。みんな昼寝の時間らしく、体を寄せ合って眠っている。「起きているときは本当ににぎやかに遊んでいるんですよ」と、ボランティアで子犬の世話をしている女性が言う。 いま、このセンターで訓練している盲導犬候補犬は、9割がラブラドール・レトリーバーで、残り0・5割がゴールデン・レトリーバー、さらに0・5割がこの2つの犬のミックス犬なのだそうだ。

 飼育室に眠っている子犬たちもラブラドール・レトリーバーだった。 これらの犬種は頭がよく性格が穏やかで、盲導犬に向いている。日本の盲導犬第1号はシェパドーの「チャンピイ」だ。シェパドーも頭のいい犬で、盲導犬に向いているのだが、顔つきがレトリーバー種に比べて恐い印象を受ける。

 それによって、レトリーバーにとって代わられたらしいのだ。 飼育室の子犬たちの表情は穏やかで、これから自分たちがどのような一生を送るか知るはずがない。体が弱かったらもちろんのことだが、盲導犬として「職業」に就くことができない犬もいるのである。たまたま飼育係の手をかんだり、オシッコの間隔が短くとも、盲導犬失格なのだ。

 盲導犬候補として生まれた中で、6-7割しか盲導犬の道を進むことができない。この中で、何匹が失格の烙印を押されるのだろう。 子犬たちはかわいい。やがて、たくましく成長するに違いない。私は「育て、元気に」と念じて飼育室を出た。