小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

127 私が住んだ街9・札幌(続) ある失敗

札幌の住宅街で一番人気は、地下鉄東西線円山公園駅周辺のいわゆる「円山」だ。札幌の中心部に近いのだが、閑静でしゃれた店もいろいろある。札幌の人には憧れの街である。幸運にもこの街で2年間の生活を送ったことがある。そこでの失敗談をひとつ。

ある土曜日のことだ。私は休みにはスポーツジムに通い、そこのプールで泳ぐことにしていた。午前中、ジムに行こうとエレベーターに乗った。柔道衣を着た小学生の男の子が先に乗っていて、私に「こんにちは」とあいさつをする。「うん、こんにちは。稽古かい」と私が答えると、彼は笑っている。なかなか賢そうな子だと思った。

その子とは、時々会った。そして私の部屋の前に住んでいることも分かった。1年が過ぎた。ある日、その子の父親とエレベーターで話す機会があった。彼はある新聞社から札幌のテレビ局に出向していたが、近く東京に戻ることになったというのである。

そこで私は「それじゃあ、坊ちゃんは残念がっているでしょうね」と聞いた。すると、彼はにやにやしながら「ああ、あなたもうちの娘を男と思っていたんですか。よく間違えられるんですよ。娘も札幌を離れたくないと言っているんです」と話したのだ。

まさかと思った。1年間もつい目の前の部屋に住む子どもの性別を間違えていたのだ。赤面しながら、私は「それは失礼しました」と謝った。その後、彼女と会った時には「東京に戻っても柔道を続けて元気でやってね」と声を掛けた。彼女は快活に「はい!」と答えた。

いつも通っている床屋に行き、この失敗談を話した。すると、彼女はこの店の常連で頭を短めに刈っていたそうだ。「〇〇ちゃんはいい子なんですよ。だから札幌からいなくなって私もさびしくて」と床屋さん。

東京に戻った「柔道少女」はその後、両親のアメリカ転勤でアメリカに一緒に行ったという。彼女がアメリカでどのように成長したか、考えるだけで楽しい。いまごろは、さなぎから蝶に変わって、美しい少女になっているかもしれない。