小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

84 空をつかむまで 現代児童文学を読む

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 かつて児童文学の道を志した。挫折した結果、事実を直視するペンの道を選んだのだが、時折、児童文学を読む。関口尚のこの小説は坪田譲治文学賞に選ばれた優れた作品だ。読後、このように爽快感を得ることができたのは久しぶりのことだ。 異性への憧れ、友情、スポーツ、町村合併といった現代の時代背景を織り込み、3人の少年たちがどう成長していくのかをあたたかい筆遣いで綴っていく。

 何十年か前の自分の青春を思い出した。いつも一緒にいる友人がいた。ひそかに憧れる同級生もいた。走ることに懸命になっていた。それは、この小説の少年たちと同じような中学生時代だった。 関口のこの作品は、友情で結ばれた3人がトライアスロンに挑戦し、優勝してしまうというストーリーなのだが、さらにこのあとの続きがいい。 ここでは触れないが少年の純粋さが危機に陥った友人を救うのだ。それが読後に爽快感を与えてくれるのであろうか。 いま、日本の教育は困難な局面にある。だが、悲観してはならないと思う。

 先日、ある学校で、児童と一緒に古典芸能の狂言を観る機会があった。教室では私語が多いと聞いていたが、そんなことはない。一流の狂言師を前にして、子供たちは目を輝かせていた。 ふだん観ることのできない伝統芸能。しかも、その世界でも頂点に近い狂言師の演技は、ただものではない。それに子供たちも気付いたのだろうか。

 この小説を読みながら、狂言に魅入る子供たちの姿を思った。子供たちの将来は平穏ではないはずだ。それを乗り切るには何が大事かを知ってほしいと痛感する。