小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

59 風を切って走れ 賢治の世界は永遠に

  穏やかな天候の正月だ。散歩も気持ちがいい。「hana」の散歩を早い時間にやり、恒例の東京-箱根間大学駅伝をテレビでじっくり見た。

  絶好の駅伝日和というのだろうか。気温10度、無風。その中でスタートした1区で、東海大学佐藤悠基(2年)が区間新記録をマークした。

  1時間1分6秒は、1994年に渡辺康幸早大)が作った記録を7秒縮める好記録だった。東海大は2位に約4分差をつける展開で、5区までトップでたすきを渡した。ところが、箱根の上りで、大逆転されてしまう。

  順大の2年連続区間賞の今井正人(4年)が5位から一気に浮上、彼の区間記録を25秒も更新する快走を見せ、東海大との4分9秒差を逆転して往路優勝してしまった。

  1区の佐藤と5区の今井は、他の選手とは全く別の走りだった。無風の中で、自分で風をつくり、文字通り「風を切って」走っていた。

  活躍するランナーのほとんどが東京以外の地方出身者である。地方の若者の方が粘り強いということなのだろうか。

  私自身は挫折してしまったが、走ることは楽しいと思った時期もあった。いまはジョギングもやめ、ただのんびりと散歩をしているのだが、箱根駅伝を走る選手を見ていると、自分が走っているように錯覚してしまう。そして、選手のフォームを見ていると、この選手は活躍できるかどうか、何となく分かるから不思議だ。

  遊歩道で、走る人の姿が目立つ。正月だというのに、ふだんの土日より多いのではないか。みんな健康志向なのだろう。

 宮沢賢治の「風がおもてで呼んでいる」を思う。

 

 風がおもてで呼んで入る/「さあ起きて/赤いシャツと/いつものぼろぼろの外套を着て/早くおもてへ出て来るんだ」と/風が交々叫んでいる/おれたちはいまおまえの出るのを迎えるために/おまえのすきなみぞれの粒を/横ぞっぽうに飛ばしている/おまえもも早く飛び出して来て/あすこの稜ある巌の上/葉のない黒い林のなかで/うつくしいソプラノをもった/おれたちのなかのひとりと/約束通り結婚しろと/繰り返し繰り返し/風がおもてで叫んでいる

 

 元旦の朝日新聞天声人語も賢治の故郷、岩手県花巻市の自然に触れている。賢治の世界は風とともに永遠である。