54 詭計
住宅メーカー「ミサワホームホールディングス」の粉飾決算と日興コーディアルグループの利益水増し疑惑には「またか」という印象を持った。両社とも日本有数の大企業である。「詭計」(人をだますはかりごとのことで、詭計を用いて利益を得るという使い方がある)という言葉を連想した。
連結子会社「ミサワホーム九州」(福岡市)が2006年3月期までの6年間、決算を粉飾していた疑いがあり、未完成の住宅を顧客に引き渡し済みと装い、売り上げを前倒して計上する手口で有価証券報告書に水増しした売上高を記載していたという。これによって、年間数億~数十億円が粉飾された可能性があるというのだから、あいた口がふさがらない。
あのライブドアが粉飾決算ノ容疑で、東京地検特捜部の摘発を受け、堀江社長が逮捕、起訴され、彼は社長を辞任せざるを得なかった。この例に従えば、ミサワのトップの責任が問われることは明白だ。
日興の場合も同様、幹部の責任は重い。担当役員を引責辞任させたが、それで収まるとは思えない。危機管理力が問われるのである。昨日、ミサワホームホールディングスの株価はストップ安となった。日興コーディアルの株式は上場廃止の恐れがある「監理ポスト」に回された。両社の失敗を見ていると、 日本の企業経営にライブドア事件の教訓は生かされていないのだとあらためて嘆息する思いだ。企業の法令順守(コンプライアンス)の姿勢はどこに行ったのだろうか。
日本社会のモラルハザード(倫理の崩壊)はどこまで拡大を続けるのだろうか。バブルの崩壊によって、儲かりさえすれば、何でもやるという猪突猛進の経営姿勢は間違いだったことに多くの企業経営者も気がついたはずだ。
しかし、そうではなかったのだ。ミサワや日興の例は氷山の一角ではないか。「成果主義の導入の弊害で来年は超一流企業でも次々に不祥事が発覚する」と予言している識者もいるが、何と年末に前倒しになって表面化したのである。
こうした不祥事が起きると、その企業の社員や家族は肩身の狭い思いを続けなければならない。企業が崩壊し職を失うケースもある。ほとんどの企業は、リストラという多大な犠牲の上に立って、今日に至っているのである。「驕るな経済人」という声は、決して不適切ではないと思われる。