小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1272 hana物語(13) 爪楊枝事件

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hanaは、犬族の一員として旺盛な食欲を誇っていた。元気なころは朝夕の餌だけでは足りないのか、私たち家族が食べている人間食まで欲しがった。動物病院の獣医さんに言わせると、犬にはドッグフード以外は不要ということだが、よだれを流さんばかりのhanaの表情を見ていると、つい分けてやってしまう。 それが原因で大騒ぎになったことがある。7歳が過ぎた2009年9月、hanaが爪楊枝を飲み込んでしまったのだ。 8、9月は果物の梨の季節で、我が家の食卓にも梨がよく出ている。ある日、朝食後に梨を食べた妻が、hanaにもお裾わけと称して爪楊枝に刺した梨を食べさせようとした。 すると、hanaは勢いよく爪楊枝ごと梨を飲み込んでしまったのだ。心配になった妻がちょうど会社が休みだった次女と一緒に近所の動物病院にhanaを連れていくと、獣医は「うちでは取り出してやる設備がないのでどうしようもないのです」と言って、設備の整った病院を紹介してくれた。そこは今年7月初めに、hanaが肝臓がんに侵されていると診断した病院で、かなり遠方からペットを連れてくる人もいる有名な動物病院だ。 この病院の獣医は妻の話を聞くと「爪楊枝といって軽く見てはだめです。内臓のどこかに刺さったままだと大変です」と話し、除去するには2つの方法があると説明した。吐き気を催す薬を使って食べたものと一緒に吐かせること、それがだめなら内視鏡を使って爪楊枝がある部分を調べ、メスで開腹して取り出すというのだ。その説明を聞いて心配になった妻と次女は泣いたそうだ。 早速、獣医によって最初の方法が試された。hanaの右前足に注射し診察室での外で待つこと約5分、hanaが吐き気を催し、口から思い切り胃の内容物を吐き出した。獣医と獣看護士が診察室から飛んできて、吐いた物を調べるとその中から爪楊枝が見つかったという。これを見た妻と次女はまた泣いた。今度は安どの涙だった。 夜、帰宅後この話を聞いた私は、動物病院同士の連携に感心したものだ。近所の獣医は、自分では処置できないことを認め、大きな病院を紹介してくれたからだ。近所の獣医はこの後引退し、別の若い獣医がやってきて引き続き、hanaの主治医としてお世話になった。 一方、大病院の医師は病院の中にある仮の宿泊施設に寝泊まりして、夜の緊急医療もやっているのだという。hanaは7月、この病院で精密検査を受けた。長女一家も含めて総勢6人(それに犬のノンちゃん)が車で1時間のこの病院に行った。引退した医師の後を引きついた獣医の「肝臓に腫れがあるのが気になる」という言葉で、精密検査をしてもらうことにしたのだ。名医によって「大丈夫ですよ」という診断が下されると期待したのだが、そうはいかなかったことは、既に書いた通りだ。 爪楊枝事件後もhanaは旺盛な食欲を見せていた。その食欲が衰えたのは2012年12月下旬になってからだ。散歩の時には左足を引きずって歩くようになり、ドッグフードも残してしまう。近所の動物病院の若い医師による血液検査と腹部のエコー検査の結果「子宮蓄膿症」という緊急手術を要する病気であることが分かり、12月28日に子宮を摘出する手術を受けた。それ以来、血液検査では肝臓の働きが悪いという結果が毎回のように出て、肝臓薬を飲み続けていた。 hanaは年明け後も動物病院に通わなければならなかった。この病院の常連になってしまい、医師にもよく慣れたようだ。我が家にこの医師が往診に来てくれた時は、弱った体で帰る先生を玄関まで見送りに出たくらいだから、この医師にとってもhanaは忘れがたい犬になったのかもしれない。