小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1263 hana物語(6) 家族として生きた証

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ゴールデンレトリーバーは、「金髪の回収犬」という意味があるそうだ。ハンターが撃ち落としたキジなどの獲物をくわえて、主人のもとへ運ぶ役割を担っていたのだ。それが物を拾うことが好きという習性となり、投げられたボールや棒を取ってくる遊びが大好きであることはよく知られている。 同時に人なつこいという点では他の犬たちと比べて抜きん出ている。番犬には不向きであることは、コメディアンの志村けんさんの自宅に泥棒が入った際、2匹のゴールデンレトリーバーが泥棒と仲良くなってしまい、全く役に立たなかったことでもよく分かる。それだけ性質は優しい。hanaも例外ではなかった。吠えることは少なく、私がふざけて口に手を入れてもかむことはなかった。うるさいはずの小さな孫娘が背中に乗っても、大人しく寝たふりをしていたことが多かった。 まだhanaが若い時分、朝の散歩のときに先輩犬のゴールデンレトリーバーと出会った。10歳を過ぎたこの雌犬はサニーという名前で、hanaと同じように優しい顔をしていた。サニーは飼い主がテニスのボールを投げると、それまでの弱々しい動きを一変させ、走って行ってそのボールをくわえる。帰りはゆっくり歩いて飼い主のところに戻り、ボールを口から離すのだが、またボールが投げられると、走っていくという同じ行為を何度も繰り返していた。運動のためかそれは10回ほど続いた。 しかし、サニーは夏のある日以来、姿が見えなくなった。他の犬の散歩をしている人たちの話を聞くと、フィラリア(犬糸状虫)という寄生虫に感染して死んだのだという。春から秋にかけては、フィラリア予防のため、月1回、動物病院で予防薬をもらって飲ませないと危ないといわれ、hanaも飲み続けていた。サニーの飼い主は、薬を飲ませるのを忘れてしまい、あっけなく死んでしまった。あれほど可愛がっていたのだから、薬を飲ませることを忘れたことに飼い主は心を痛めたに違いない。 hanaの重病が分かってから、何度も動物病院にお世話になった。ほとんどはエサを受け付けないため、栄養剤を点滴してもらった。ある日、点滴をやってもらうとき、医師に聞いた。「フィラリア予防の薬を飲ませる時期なのですが」と。すると、医師は「いまはいいでしょう」と答えた。後になって考えると、この予防薬がhanaの弱った体に悪いだけではなく、医師はこの犬の命はもう長くはない、だからもうフィラリアの薬の投与はやめようと思ったのかもしれない。ただ、そのことを私たちに言うと、ショックを与えるので、説明は加えずに「いまはいいでしょう」と話したのではないだろうか。 hanaもボール遊びが大好きだった。庭でテニスボールを投げてやると、それをくわえて私の足元に落とす。そのうちボールを木の陰に隠したりして勝手な遊びを始める。テニスボールよりも大きなゴムのボールが実は一番のお気に入りで、そのボールはhanaがくわえると、「キュー」という音を立てる。hanaにはその音が子どもの犬が甘えているように聞こえるらしく(と言っても想像だが)、自分も「キュン、キュン」泣きながら、 部屋の中をぐるぐる回る。 hanaが死んで火葬にするとき、このボールも一緒に入れてやろうと思ったが、hanaの形見として残すことにした。妻と娘たちは、火葬にする前、形見にすると言ってhanaのくるくるとしたクセ毛をはさみで少し切り取った。hanaの遺骨もいずれ庭の土になるが、このボールとクセ毛はhanaがわが家で過ごした証として大事にしたいと思う。 次回→