小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1202 幻のオリンピック物語 2020東京大会は成功するのか

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ロシアのソチで冬季五輪(第22回)が開催されている。旧ソ連時代、1980年夏の大会がモスクワ(22回大会)で開かれたが、アフガニスタンへのソ連軍の侵攻をめぐって日本を含む西側の多くの国が参加をボイコット、寂しい大会になった。そんな経緯があり、ロシアにとっては国の威信をかけた2度目のオリンピック開催といっていい。そのためか、開会式ではロシアの栄光の歴史を紹介し、「偉大なるロシア」を強調する演出だったと、報道されている。 かつてのオリンピックは、アマチュア精神を最優先にし、政治とは切り離すというのが運営の基本といわれた。しかし、1936年のベルリン大会(第11回)は、ナチスドイツの国威発揚の場になり、それ以降次第にオリンピックは開催国を誇示する大会に変質していく。最近では2008年の夏の北京大会(29回)は、経済成長著しい中国の国力を世界に見せつけるための演出が話題になった。 日本では過去に夏は東京(1964年、第18回)、冬は札幌(1972年、第11回)、長野(1998年、第18回)の計3回の五輪が開催され、2020年には再び東京が32回目の夏の五輪招致に成功した。夏冬合わせて4回目の開催はアジアではもちろん日本が初めてだ。国の財政状態はアップアップであり、さらに福島の原発事故の収束の見通しがつかない中で、4回目のオリンピック開催に複雑な思いを抱く人は少なくないだろう。 ソチ五輪の開会式直前、橋本一夫著「幻の東京オリンピック」(講談社学術文庫)を読んだ。「幻」という題名にある通り、東京はIOC(国際オリンピック委員会)総会で1940年の第12回夏の大会の開催地に選ばれた。冬の五輪も夏の大会と同じ年の1940年に札幌で開催することが決まっていたが、日中戦争の激化により日本は両方の大会を返上、戦後になって2つの大会が開かれたのだ。 当時の日本は軍国主義がますます勢いを増し、戦時色が強まる中、アジアで初の大会は返上されることになった。著者の橋本はスポーツを担当した元NHK記者である。本書は招致をめぐるヒットラームッソリーニとの取引、戦争と政治の狭間で揺れ動くスポーツ界の姿など、五輪招致と返上という過程で関係者がどのように動いたかを克明に追った幻のオリンピック物語である。 2020年の東京大会の招致の最終プレゼンで、安倍首相は福島の原発事故について「状況はコントロールされている」という虚偽とも思える大胆な発言をした。その福島では支援者や被災者から「健康不安への恐怖」「将来への不安と絶望」「政治への失望」の声が強くなっているという。この作品を読んで、福島の原発事故を間違いなくコントロールできなければ東京大会の成功はあり得ないのではないかと考えるのだが、福島の人たちもそう思っていることだろう。 写真 大雪にはしゃぐ小さな女の子と犬
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