小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1155 あるジャーナリストの2年半を迎えての記 裏切られた被災地

画像「2年半前、あまりの被害の大きさに私たちはたじろいだ。犠牲者の人数もけた違いだった。しかし、この豊かな日本社会だ。ほどなく人々の生活を立て直す力があるはずだ。誰もがそう信じたが、想いは裏切られた。被災地の人々は奥歯に何かがはさまったような、何かはぐらかされたような気持のまま、この日を迎えた」。東日本大震災から2年半を迎えて、仙台市に住む友人のジャーナリスト、松舘忠樹さんは、自身のブログ「震災日誌in仙台」にこう書いた。 月日のたつのは早い。「あの日」からもう2年半が過ぎてしまった。つい、昨日の出来事のように思えるが、3回の暑い夏を経験し、被災地にも秋の気配が漂いつつある。だが、松舘さんが書くように、「豊かな日本社会は、ほどなく人々の生活を立て直す力があるはずだった」にもかかわらず、被災地の復興は思うように進んでいないのが実情だ。 最近、首都圏に住む知人は仙台発のJRバス「東北復興応援号」に乗り、宮城県内の被災地を回った。手元に届いた雑誌にその報告が載っている。被災地を回るこのようなバスが最近出ているようで、以前、岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」でもバスから降りた大勢の人たちの姿を見かけたことがある。知人が乗ったバスは2台で同乗者は85人おり、仙台から国道6号を北上して石巻、南三陸気仙沼へと入った。バスには母親が行方不明だというガイド兼震災語り部の女性(61)が乗っており、南三陸では父親と兄が行方不明だという男性(58)の語り部も話をしたという。淡々と記した被災地報告は胸を打つ。その報告を読みながら、このバスに乗った人たちの目にも復興の遅れは焼き付いたのではないかと思った。 同じ被災地でも完全コントロールとは程遠い原発を抱えた福島は、前途多難と言わざるを得ない。安倍首相は、東京への五輪招致で「原発の汚染水は0・3平方キロの範囲内で完全にブロックされている」と語ったが、松舘さんのブログのように、これに疑問を投げかける声は強い。 《安倍首相は「汚染水の影響は原発の港湾内の0・3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされている」とも述べた。では、福島の漁協がいまだに漁獲した水産物を出荷できないのは、どんな理由によるのだろうか。首相の言葉を信じる人が果たしているだろうか。事情をよく知らないIOCの委員だから言えたのかも知れない。とすると、首相は二枚舌を使ったことになる。 安倍首相は「健康問題は今までも、現在も、将来も全く問題ないと約束する」とまで言った。開いた口がふさがらないとはこのことか?でも、わが子の健康が心配で、遠くに避難生活を強いられているお母さん方、これは朗報かも知れない。よもや約束はIOC向けで、国民向けではないと言わないだろう。一国の首相が力強く約束したのだ。健康問題は将来も問題ないと。なにか影響が出た場合は安倍首相の責任なのだ。国際的に公言したことは責任もって実行してもらわないといけない》 私にも家族で福島から関西地方に避難したままの知り合いがいる。この一家は、もう2度と福島には戻らない覚悟をしている。国や東京電力の発表を信じることはできないと思っているからだ。テレビのスイッチを入れると、汚染水観測用に堀ったという井戸の水から放射性物質トリチウムが1リットルあたり6万4000ベクレルとたった一日で倍増しているというニュースをやっていた。周辺の地下水汚染が進んでいることを裏付ける話で、制御できない第一原発の現状は不気味でならない。 松舘さんのブログ 大震災から2年半  ”オリンピック狂躁曲で置き去りに!?”~被災地の人々の不安