小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

777 逆境にあっても生きる大事さ モンゴメリー 「アンの娘リラ」の読み方

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犬と人間との間には信頼関係が芽生える。それが、日本では有名な「忠犬ハチ公」物語という美談になった。これがモデルになって、アメリカ映画の「約束の犬 HACHI」も生まれた。

忠犬ハチ公は、飼い主が亡くなった1925年から10年間から渋谷駅前で帰りを待ち続けた秋田犬のことだ。実は、これと同じような話(小説)がこれより前の1920年にカナダで発表されていたことを知った。

小説はアン・シリーズ最終作といわれる8回目の「アンの娘リラ」である。第一次世界大戦を主題に、作者のモンゴメリーは、リラというアンの末娘の視点で、当時のカナダの状況を描いている。

リラには3人の兄がおり、ドイツとの戦争のために彼らは従軍する。物語は愛する家族が戦争に行った後の、家族の姿をリラの目で描写する。リラには、戦争孤児になった子どもを赤ちゃんの時から育てるという大事な役目がある。

ハチ公と同じように、リラの家にはマンディという名の愛犬がいる。この犬は長兄のジェイムズが出征する時、駅で見送り、そのまま駅にとどまり、彼の帰りを待つ生活を続けるのだ。次兄のウォルターが戦場で死んだときには、マンディが悲痛な鳴き声をあげ、リラは不吉な予感をする。

この後、戦地で行方不明になった長兄のジェイムズは、家族があきらめかけたときに、無事カナダへと生還し、マンディと感動的な再会を果たすのだ。

「アンの娘リア」はアンという愛すべき女性の子どもが主役で、登場するのは愛する夫や子供を戦場に送り出した女性たちだ。この本は1アンの娘のリラを軸に第一次大戦化、カナダの一地方に生きる女性たちがどんな思いでつらい日々を送ったかを多くのエピソードを交えて描いている。

それは時を経て太平洋戦争時代、私の母や祖母がもがき苦しみ、悲しんだ状況と変わりはない。

モンゴメリーは、マンディとジェイムズの関係に関して現実にあった話からヒントを得たのかもしれない。その真相は分からないが、この後、日本でハチ公の話が起きるのだから、やはり、カナダでもこうした話があったのだろうか。

「アンの娘リラ」は悲しい物語だ。しかし悲しみを乗り越え成長するリラ、愛する人をひたすら待ち続けるマンディを通じて、逆境にあっても生きることの大事さをモンゴメリーは言いたかったのではないか。

そんなモンゴメリーは1943年に67歳で亡くなったが、うつ病による自殺と孫娘が明らかにした。結婚した牧師がうつ病となり、生涯苦労をしながら「アン」という性格の明るい少女の話を書き続けたが、最後には力尽きのだろうか。