小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

706 目立たなかった白鵬 25歳にしてこの風格

画像 大相撲見物で両国の国技館に何度か入ったことがある。印象に残った力士は千代の富士貴ノ花、そして朝青龍の3人だ。きょうで54連勝と、双葉山の69連勝に次いで歴代2位の連勝記録をつくった白鵬は見ていることは見ているが、ほとんど記憶にない。まだ目立たない存在だったのかもしれない。 千代の富士を初めて国技館で見たのは、彼がまだ幕内の平幕時代だった。小さいが躍動感があり、体全体から光のようなものを発していた。貴ノ花は、横綱になって大けがをして7場所連続という長期休場をした。この休場明けの2002年の秋場所を見に行く機会があった。かつての貴乃花のイメージとは程遠い、太った力士に変わっていた。 ちょうどこの日は朝青龍と対戦し、朝青龍の攻めをこらえて最後は上手投げで勝つ。力士としては峠を越えており、次の九州場所はまたもや休場、翌03年初場所途中で引退した。この後の相撲界を背負ったのは朝青龍だった。最後の仕切りが終わって大きく手を挙げるポーズが異色だった。勝負がついた後、だめを押すのも彼のくせだった。 昨日で自分の記録に並ばれ、きょう歴代3位に落ちたかつての千代の富士、現在の九重親方がちょうどNHKテレビの解説者として出演していて白鵬を祝福していた。偉大な記録といえどもいつかは破られる。千代の富士は複雑な思いできょうを迎えたのかもしれない。内心では負けてほしいと思ったかもしれない。だが、白鵬が勝ったあとはけっこうサバサバしていた。 白鵬の記録は偉大だ。ただ朝青龍が引退したあと、ライバル的存在の強い力士がいないという背景があり、群雄割拠的に強い力士がいた千代の富士時代とはやや異なる。そんなことをアナウンサーが聞くと、千代の富士は「いや周囲うんぬんより白鵬が群を抜いて強くなっているんですよ」と、後輩が日々強くなっていると解説していた。 モンゴル出身の白鵬は、朝青龍とは激しい相撲を取った。対戦成績は白鵬の13勝12敗であり、ほぼ互角の戦いを続けた。連勝記録は、ことしの初場所千秋楽で優勝した朝青龍に土をつけて以来始まった。朝青龍初場所で優勝しながらこの直後に不祥事の責任を取る形で引退した。こんなことを書くと、白鵬ファンには文句を言われそうだが、もし朝青龍が現役を続けていれば、白鵬のこの記録はなかったかもしれないのだ。 それにしても、白鵬という力士は風格がある。まだ25歳だというのだから驚く。「地位が人をつくる」という。まさに白鵬はそれに当たる。横綱まで昇進しながら、そうした風格を身につけることなく引退していった先輩は少なくない。その意味でも、白鵬は傑出した存在なのだ。