584 生き過ぎか足らざるか 揺れる価値観
民主党が小沢幹事長の政治資金規正法違反事件に絡んで「捜査情報漏えい問題対策チーム」を設置したというニュースが流れた。「本当か」という耳を疑った。小沢幹事長の土地取引をめぐる疑惑に関して、多くのメディアが様々な情報を流している。
民主党は、その多くを検察の「リーク」と考え、言論の自由を脅かす行動に出ようとしているようだ。何をばかなことをするのかと思うのは、私だけではないだろう。民主党に政権を任せようとした多くの国民は、失望しているはずだ。
ある親友の話を書く。彼は新聞社の社会部記者だった。調査報道をこつこつとやった。捜査当局にも情報源があったが、その情報を鵜呑みにはしなかった。ロッキード事件、リクルート事件という大型事件を経験した彼の信念は「反権力」だったが、当然、検察の動きについても距離を置いていた。
そんな友人に、今回の検察リークを調べるという民主党の方針をどう思うか聞いてみた。
結果は私の考えと大きな違いはなかった。
「一党独裁の中国ではない。民主主義の日本の代表政党が、そんなことをやるとしたら、血迷ったとしか言いようがないな」と、彼は言う。
言論の自由は憲法21条で保障されている。それを知りつつ、法律に詳しい弁護士出身の議員があえて「リーク」の実態を調べるのだそうだ。
たしかに昨今の小沢氏に関するメディアの報道はものすごく、集中豪雨的な報道が続いている。読者や視聴者に提供されたそれらの情報のすべてが正しいとは思えない。だが、小沢氏が説明責任を果たさない以上は、こうした報道はなかなか終わらないだろう。
「自民党の政治にあきた国民の多くが民主党に投票した。だが、鳩山首相といい、小沢幹事長といい、そうした思いに背を向けた。リークを調査する以前に、やることがあるはずだよ。それが分からないとしたら、民主党は危機だよ」。親友は声を落としながら、こう話した。
ことしは戦後65年になる。かつての日本は、言論の自由はなかった。戦争に負けたあと、ようやく言論の自由を獲得した。
これまで行き過ぎた報道がなかったとはいえない。名誉棄損も少なくない。しかし、何よりも言論の自由が戦後日本の社会・文化を形成したのだ。それを民主党の国会議員は忘れてはならないと思う。
こんな動きで気持ちがふさいだ時、小学校の恩師から届いた年賀状をあらためて読んだ。そこには6首の短歌が記されている。
その1首に「生き過ぎか足らざるか知らぬ八十年 いのちに芽ぶく若草あり」という歌があった。
私の恩師を含め激動の時代を生きた多くの先輩たちに、価値観が揺れ続ける現代はどう映っているのだろう。