小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

553 まとめて読書 秋の夜長に

画像 季節は秋から初冬へと移行している。昔から「秋の夜長は読書」といわれる。しかし、この言葉は生きているのだろうか。せわしい現代日本人からは、そうした習慣は次第に失われていっているのかもしれない。いい本に巡りあうことができれば、その習慣は復活すると思うのだが、なかなか難しい。次は私の最近の読書からの寸評。さて、いい本は何冊あっただろう。 「絵のない絵本」(アンデルセン・矢崎源九郎訳) ヨーロッパやインド、アフリカ、中国を舞台に、空想と人々の人生を短い物語に凝縮したコーヒーならエスプレッソのような濃い味わいがある。 「春のオルガン」(湯本香樹実) 反抗期というのだろうか。自我の目覚めというのだろうか。だれにでもそうした時期がある。そんな多感な少女の感覚を、大人は思い出すことができるのだろうか。 「ブラバン」(津原康水) 吹奏楽部の青春。4半世紀を経て、それを取り戻すことができるのか。青春時代は甘くて切ない。 「港町食堂」(奥田英朗) 日本各地のほか韓国の釜山といった港町を旅した直木賞作家の、悔しいほど、面白いエッセー集。毒舌と笑いを求める人にお勧めだ。 「四度目の氷河期」(荻原浩) 母一人、子一人の少年の生い立ちのなぞを探る旅。陸上競技の中でも、マイナーな槍投げに光を当てている。私が中学生時代走った1500メートル競技への挑戦も読ませるものがある。 「文人悪食」(嵐山光三郎) 文人とは、小説家であり作家のことだ。その生態はすさまじい。37人の「文士」の食を徹底して調べ上げた労作。作風と食生活は必ずしも一致しないことを知った。 「ウエハースの椅子」(江國香織) 独特のさっぱりとした文体。内容は結構粘っこいが、文体で救われている。詩のような世界が広がる。