小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

534 人を育てることとは  野村さんの胴上げ

プロ野球楽天の野村監督が、24日のクライマックス日本ハム戦を最後に監督の座を降りた。74歳という年齢なのに厳しい監督という仕事を続けてきたのだから、ただものでないことがよく分かる。

試合後に相手チームの日本ハムの梨田監督や稲葉選手らが、野村さんの胴上げに加わったことを見ても「老将」の野球界への貢献度が高かったことを感じた。野村さんは胴上げの後「人を残すことで(球界に)貢献できた」と語っている。弱小球団を優勝争いができるまでに強くしたのだから、野村さんは人を育てる(人材育成の)名人だったのだろう。

2005年に仰木彬氏が69歳でオリックスの監督に就任、シーズンオフ後の12月に亡くなった。肺がんと闘いながら厳しい監督の仕事を務めたことが命を縮めてしまった。野村さんは、仰木さんを上回る70歳で楽天の監督になった。米大リーグでは80歳の監督がいたというが、野村さんには「老将」という言葉が似合っていたように思う。

「生涯現役」という言葉がある。口でいうのは簡単だが、実践するのは難しい。高齢化社会にあって、60歳(高齢者とはいえないが)となり定年後も現役で働く人が多いが、70歳を超えて現役生活を維持する人は少ないはずだ。その意味でも野村さんは、現役にこだわる「現場の人」だったといえるだろう。

野村さんにはかつての長嶋・王のような輝きはない、というと怒られるかもしれないが、彼らにはない「いぶし銀」のような渋くて淡い光がある。好き嫌いはあるが、人を育てるという点では、彼に勝る指導者はそういないのではないか。

日本社会は、金融危機に端を発した不況で閉塞感に覆われている。ともすれば、目先のことにとらわれ、人材も「即戦力」を求めがちだ。いい結果を残すことは大事だが、結果を優先するあまり、社会全体が長い目で人を育てる意識が希薄になっているように思えてならない。そんな時代風潮の中で、自分のやりたい道を貫いた野村さんの生き方に共感を覚える人が多いのではないか。