小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

527 旅は記憶だ スペイン・ポルトガルの旅(7)完

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「記録より記憶に残るような選手になりたい」と、高校野球で、大リーグに行った松坂大輔以来のピッチャーといわれる花巻東高校の菊池雄星がプロ希望を表明した際にこう話した。戦後のプロ野球で、それを実践したのは長嶋茂雄だったが「記録よりも記憶」という行動をする人をポルトガル・スペインの旅で見かけた。以前行ったニュージーランドの旅でも、そのような人がいた。(写真はポルトガル・シントラの王宮で撮影) ポルトガル・スペインの旅で、デジタルカメラのカードの不具合があったために、その行動は特に印象に残った。成田からロンドンを経由してポルトガルの首都リスボンに到着したのは、約20時間後だった。時差があるので、朝出て夜到着ということになり、2日目の朝は普通に目覚めた。 ホテルの朝食はパンの種類も多く、食欲も旺盛だった。上々のスタートだと思った。朝食後中庭の芝生で写真を撮った。ホテル周辺はビジネス街でもあり、多くの人の出勤風景をみた。くわえ煙草の女性もいる。残暑が厳しい中で男性はスーツ姿が多い。 午前中はリスボン市内の名所めぐりのコースだ。リスボンといえばベレンの塔や発見記念塔、ジェロニモ修道院だ。もちろん、写真には絶好の場所だ。遠慮なくシャッターを切る。いい写真が撮れたはずだと思っていた。 昼、レストランで食事をしている最中、午前中に撮った写真を再生しようとした。すると「カードが異常です」という表示が出て、写真自体は見ることができなくなった。SDカードが何らかの原因で使えなくなったのだ。仕方なく別のカードを使い、その後問題なく旅が終わった。 帰国後、カメラ専門店に相談に行く。修理の会社に送ってみるという返事があり、送料1200円、修理費用は8000円と高額だ。問題のSDカードは2ギガでたしか1000円ちょっとで買ったはずだ。結局、購入費用より修理費の方が高いというのだから訳が分からない。「安かろう、悪かろう」なのか。それでも思い出の写真は復元してほしいと思った。1週間して85枚の復元が可能という連絡があった。かくしてポルトガルの写真は、非常に高価な一枚一枚になる。 「記録より記憶」の話を付け加える。若い女性がいた。彼女はカメラを持っていないし、だれかと一緒に写真を撮ることもない。理由を聞くと「旅の思い出を記憶するため、写真はわざと撮らないのです」と話してくれた。ニュージーランドで一緒になった元大学の先生も同じことを言っていた。 その元先生は、1年で10数回海外旅行に出ているとも話していた。そんな人が写真を撮らないのだから、旅のやり方も様々だと思う。フィルムカメラからデジタルカメラになって、写真の撮影枚数が格段に多くなった。それだけに旅の思い出は希薄になっている。そんな環境下、旅は記憶だという行動を実践する人も増えているのかもしれない。そんな人は、凡人に比べれば、記憶力もいいのだろうと想像する。
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(写真はスペインに移動してアンダルシア地方の白い村、ミハスで食べたパエリア)