小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

417 映画「ワルキューレ」 失敗したヒトラー暗殺作戦

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映画「ワルキューレ」を見た。1944年7月20日、ドイツ。ヒトラーを暗殺し、独裁政権を倒そうとした歴史的事実に基づいた映画だ。計画は未遂に終わり、中心人物のシュタウフェンベルク大佐(映画ではトム・クルーズが演じた)をはじめ関与した多くの人たちが処刑される。 なぜ、この計画が失敗したのか。指導者の優柔不断や計画の不徹底がある。この作戦が成功していたら世界情勢は変わっていたのだろうか。 ヒットラーはこの暗殺事件では軽傷しか負わなかった。それから8ヵ月後には連合軍に追い詰められて自決するのだから、運はこの暗殺未遂事件で尽きたのだろう。 一方、ベルリンの旧国防省跡にはこの事件の記念碑があり、国内予備軍司令部のあったベンドラー街はシュタウフェンベルク街に改名され、記念館もある。さらにレジスタンス記念切手も発行され、ドイツでの声望は高い。死して、彼らは名を残したのだろう。 作戦の失敗として、指導者の優柔不断や計画の不徹底と書いた。たしかにその通りだ。だが、あの独裁時代に行動を起こしたことは評価していいだろう。同じ時代の日本。たしかに反戦運動はあった。しかし、ワルキューレのような政権打倒を目指す作戦はなかった。 鳥飼行博東海大学准教授は「ヒトラー暗殺事件に加わった将軍の多くが,ドイツの再軍備を進め,近隣の民族ドイツ人の居住領域を自国に併合し、対ソ戦で共産主義者の抹殺を承諾したことは特に問題にされていないかのようである」と、研究室のHPで書いている。軍人とはそういうものなのだ。 2006年と2008年の2回、ドイツを旅した。60数年前の戦争の影はほとんどなかったが、ベルリンの壁跡やカイザーヴィルヘルム記念教会の廃塔を見てヒトラーという独裁者に翻弄された時代があったことを思い知った。 映画は説明が足りず、やや物足りない思いがした。しかしこうした映画を見た若者が歴史を学び、狂気に走る独裁政権を生む土壌を決してつくってはならないことを理解すれば、映画の目的は達成したといえるだろう.