小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

356 難しい言葉の遣い方 想像力の乏しい人々

井戸敏三兵庫県知事が関西経済活性化をテーマにした近畿ブロック知事会議で「関東大震災が起きれば相当ダメージを受けるからチャンス。チャンスを生かさないといけない」と、語った-というニュースは、震災で大きな被害を受けた人々もあきれたに違いない。

まるで「火事場泥棒的」発想ではないか。火事に遭っててんてこ舞いする家にどさくさにまぎれて入り込み、泥棒を働く行為とそう変わらない考え方だ。

発言を聞いた人たちがどのように思うか想像もできないとしたら、井戸という知事の人間性を疑ってしまう。最近、井戸知事だけでなくいわゆるトップに立つ人の「国語力」の弱さに愕然とすることが多い。麻生首相の言葉遣いの誤りが目立つという朝刊の記事を読んで、その感を深くした。

聞くところによると、麻生首相は熱烈な漫画ファンだという。漫画はストーリー展開がわかりやすく、言葉よりも視覚に訴えるものだ。趣味の問題なので漫画を見ることにどうこう言うことはないが、一般の読書に比べると、国語力の向上にはつながりにくいのではないかと思う。

それは別にして、新聞によると、麻生首相は最近の会議や国会で「頻繁」(ひんぱん)を「はんざつ」と読み、「未曾有」(みぞう)を「みぞうゆう」と、「踏襲」(とうしゅう)を「ふしゅう」と読み間違えたという。記者団に指摘されると「それは単なる読み違いか、もしくは勘違い。はい」(読売新聞)と、答えたという記事を見て、思わず何だこの人はと思ってしまった。一国の首相ともあろう人が、日本語をちゃんと学んできたのかと疑ってしまうのだ。

何代か前の故大平首相は、読書家で知られた。首相時代も暇を見ては虎ノ門の書店に通った。周囲にも、1年のうち3分の1は海外出張という過酷な仕事をしながら、旅の間本を手放さない人がいる。麻生さんもこうした人たちを少しは見習ってはどうだろうか。

言葉遣いの点から見ると、厚生労働行政の在り方に関する懇談会の奥田碩座長(トヨタ自動車相談役)のマスコミ批判の発言も頭に血が上ったとした言いようがない妄言だ。奥田氏はこう言い切ったそうだ。「朝から晩まで年金や保険のことで厚労省たたきをやっている。あれだけたたかれるのは異常な話。正直言ってマスコミに報復してやろうか。スポンサーでも降りてやろうか」。

こうした懇談会の座長になると、その役所の味方をしたくなるのだろうか。そうではないはずだ。国民の目線に立って客観的立場で物を考える必要があるのに、これではこの懇談会は、「厚労省応援団」の集まりと見られても仕方がないだろう。そうした想像ができないとしたら、トヨタを世界的企業に成長させた立役者の一人である奥田氏の経済人としての輝かしい歩みは何だったのだろうかと思う。