小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

343 三浦元社長の死 表舞台から突然の退場

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長崎を旅している途中、いわゆるロス疑惑三浦和義元社長がサイパンから移送されたロス警察の留置場で首つり自殺をしたというショッキングなニュースを聞いた。 今月12日の夕方のことである。これまでメディアをにぎわしてきた1人の人間が、突然舞台から消えてしまった。人間の命のはかなさを思った。 三浦元社長とは、縁があった。ロス疑惑の担当の1人として彼の周辺を追った時期があった。どう見てもふつうの世界に生きる人ではなかった。弁護士を使わずに、多くのメディアを拘置所から訴え、本人訴訟を起こした。名誉棄損による損害賠償を求める裁判だ。それに遭遇し、法廷で三浦氏と対峙したことがある。 逮捕、拘置中の彼は、東京地裁の法廷まで腰縄、手錠姿でやってきて、法廷に入ると、それらを外して原告側に座る。獄中、六法全書を勉強したとあって、被告側の私に激しい質問を繰り返す。幸い、貴重な資料があって、舌鋒鋭い彼の質問に窮することはなかった。 判決は、こちら側の勝訴に終わった。それでも、彼の理路整然とした質問に、内心で冷や汗をかいたことを記憶している。 彼の自殺の原因はよく分からない。遺書はないらしい。論評をするのは簡単だが、死に行く人の胸中は、他人には理解できない。ロス警察への抗議だとか、これからのことを思って絶望したのだろうとか、いろいろな推測がされている。しかし、あくまでも推測にすぎない。 たまたま、中川右介著「巨匠たちのラストコンサート」(文春文庫)を読んだ。トスカニーニバーンスタインカラヤンといった20世紀を代表する指揮者だけでなく、モーツァルトマリア・カラスなど天才作曲家、傑出したソプラノ歌手にも触れている。最盛期に表舞台から去った人もいるし、力は衰えても音楽への情熱を傾けた人もいる。 メディアに登場するのが大好きだった三浦氏は、突然表舞台から姿を決してしまった。その自殺報道を見て、この本に登場する人たちを思い、三浦氏と比較し、このような人生の終焉もあるのだと理解した。 それにしても彼らしい幕引きだったと、感心する。これによってロス疑惑は真相解明がされないまま幕を下ろした。多くのメディアを引きずりまわした特異な事件だった。