小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

312 8月(4) 鳥羽と神戸の海の博物館にて

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暑い毎日が続くと、クーラーの効いた部屋で好きな本でも読んでいたいと思ったりする。半面、涼を求めて旅をしたくなるのも事実である。 たまたま海に関する2つの博物館に用事があり、三重県の鳥羽と神戸に行って来た。涼を求めるのは無理だったのだが、珍しい物を見た。子どもたちの夏休み期間中、こうした博物館はけっこう人気があるそうだ。夏休みの宿題をするのに絶好の材料がそろっているからだろう。 だが、おしなべて日本人は博物館にはあまり行かない。それだけまだ文化に対する思いがヨーロッパなどに比較して少ないのかもしれない。それを裏付けるように、2つの海に関する博物館とも人影はまばらだった。 真珠の街である鳥羽は、名古屋から近鉄線の特急で1時間40分かかる。車内はがらがらだ。目指す「海の博物館」は、タクシーで鳥羽駅からさらに約20分の高台にあった。木立の中にあってあまり目立たないが、日本の古代建築を見るような建物が目指す博物館で、海藻に関する特別企画展をやっていた。 昆布を中心にした展示なのだが、「食べる」ことを前提にしていた考えは、浅はかとすぐに気がついた。食べ物だけでなく、さまざまな用途があるという。 化粧品、薬、日常の生活用品などのほかに、遺伝子鑑定でも活用されていることを知った。海藻を使って、「おしば作り」の教室もやっている。おしばは草花だけかと思っていたので、実際の海藻おしばつくりを見て、私も挑戦したくなった。(時間がなくて手を出すことは断念した)。 鳥羽駅まで帰る途中、海辺に高層ホテルが建っているのが見えた。きれいな海の景観が台無しと思い、反対の声はなかったのかとタクシーの運転手さんに聞くと「なかったですね」と言う。このホテルを利用するのは関西圏の人々が多いそうだ。たしかにホテルからの眺めはいいだろうが、鳥羽の海岸には邪魔ではないかと思った。 鳥羽から神戸に足を延ばす。神戸大学深江キャンパス(神戸大と合併した元の神戸商船大)にある「海事博物館」では、「近代日本商船の全容」という特別展を見た。元広島大教授の山田早苗氏と「何でも収集家」仲島忠次郎氏のコレクションを中心にした展示だ。
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山田氏は日本の近代商船を長い年月をかけて調査し、文字と写真のデータとして残した。仲島氏は何でもかんでも集めるのが趣味だったが、神戸大学には船に関するポスターなどを寄贈、今度の企画展に飾られた。 この2人は、まさに一般の常識をはるかに超えた超人的な収集癖があり、博物館の石田寛治館長をして「常人ではとてもなしえないことだ。これを多くの人に見てもらうのが私たちの仕事」と言わしめた。 すごい人が世間にはいるものだ。自分の趣味の域を超え、後世に残ることをできた2人は幸せな人生を送ったといえる。 宿泊した神戸市内のホテルでは、海外の若者が多く泊まっていた。部屋が狭いのか、廊下に座り込んでノートパソコンに向かうヨーロッパ系の若い女性もいた。こんな光景は初めてであり、さすが神戸は国際都市だと感心した。