小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

297 戸塚洋二さんの死 開花した才能の陰に人生の出会い

ノーベル賞の有力候補と言われていた戸塚洋二東大特別栄誉教授が亡くなった。66歳。なぞの素粒子ニュートリノに質量があることを示したことで知られる。ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊さんの愛弟子であり、戸塚さんの死を伝える新聞を見て、人間の才能は計り知れないなと感じた。

毎日新聞によると、戸塚さんは小さいころ、学校の成績が悪く、人付き合いも苦手だった。会社で働く自分が想像できずに、研究者の道を選んだのだという。

恩師の小柴さんは、以前「戸塚君は大学院入試の筆記試験は合格点に達しなかった。しかし、面接で新しいことをやろうという意欲が見えたので私が引き上げた。研究者に必要なのは意欲だ」と語っており、戸塚さんは必ずしも秀才タイプではなかったようだ。

研究者を選んだ理由もユニークだし、大学院の入試で失敗しながら小柴さんという人を見る目が確かな恩師に出会い、稀有な才能が開花したのだから、人生は不可思議なものだと思う。小柴さんがいなかったら、戸塚さんの偉大な発見はなかっただろう。

世界の発明王といわれるトーマス・エジソンも幼いころは苦労した。小学校では学習障害発達障害を併せて持っていたといわれる。

そのために途中で小学校をやめ、その後は母親が教育に当たったというから、成長して発明王になるとは、小学校時代の教師はじめ、周囲の人たちには想像もできなかっただろう。

エジソンや戸塚さんのケースは、稀有なのかもしれない。だが、2人の歩みをたどると、人間には思いも寄らない才能が秘められていることを知らされるのだ。

その才能を開花できるかどうかは、運にも作用される。エジソンの場合の母、戸塚さんの場合の小柴さんの存在が2人にとっては、羽ばたくうえで大きな力になった。そんな出会いがある人は幸せである。戸塚さんの冥福を祈りたい。