小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

265 世襲議員の悲劇 窮地の政権

子どもが親の仕事を継ぐことは、古今東西珍しいことではない。日本でも多くの職業で親から子へのバトンタッチが繰り返されている。

いま日本の政治の世界で、こうした形式で議員バッチをつけている「世襲議員」が少なくない。大半がそうだ。福田首相、安倍前首相、小泉元首相と3代の首相もそうだ。民主党の小沢代表、鳩山幹事長もしかり。

政治家になるには、「地盤、看板、かばん」の3つの条件をクリアすることが必要だといわれる。「地域との密接なつながり、知名度、資金力」である。この3つを労せずして手に入れることができる人はそう多くはないから、世襲議員が国会で大手を振るうことになる。

私は政治の世界はあまり興味がない.。しかし、最近の政治の動きを見ていると、世襲議員のマイナス面が本人たちの気づかぬままに出ているように思えてならない。

それはただ1点だ。彼らは現在の自分の立場でしか物を考えることができないということだ。生まれながらにして将来を約束された立場の人間に一般市民の目線でといっても、理解できないはずだ。昨今の3人の首相の動向をみていると、そうとしか思えない。

小泉さんの場合は、あのパフォーマンスでそうした「世間知らず」をうまく隠し続け、高い内閣支持率を維持した。しかし、安倍さんと福田さんはそれができなかった。その言動は、高い位置から見下ろしていると多くの国民は受け止めている。それが世襲議員の悲劇なのである。

福田内閣の支持率について、世論調査で20%(朝日新聞)、19%(共同通信)という厳しい結果が出た。この数字の意味は重い。安倍丸に続き福田丸も危険水域に入ったことを示しているからだ。

ガソリンの暫定税率問題や高齢者医療費を年金から天引きする問題は舵取りが極めて困難だ。福田さんに対し、そうした問題を解決するだけの力量があるかどうかを不安視する国民の目が多くなっていることを世論調査は示しているといえるだろう。

フランスではかつて、サンソン家という死刑執行を仕事とする家系があった。日本でも江戸時代に首切り浅右衛門という死刑執行人の世襲制が続いた。歌舞伎など、古典芸能の世界はじめさまざまな職業で世襲は多い。

それは悪いことではない。だが、そうした世界で子は親を凌駕しようとする姿勢が極めて大事だ。それは徹底して自分を磨くことである。それが日本の政治家には感じられない。

福田さんの場合、このままでは父親を超えた政治家といわれることはないはずだ。「安倍さんより大人だし、リーダーシップを発揮するだろう」という期待は裏切られた。

後期高齢者医療制度のように、日本を支え続けた世代に対しただ医療費抑制という観点からしか物を見ることができず、国民の政治への思いを読めない姿を露呈した以上は福田さんに多くを望むのは無理かもしれない。

日本は古いしがらみから抜け出せない地域が多い。その結果、地方を中心に議員の世襲を当然視する土壌が依然として残っている。政権が失敗を重ね、次の政権になってもこれでは日本の政治は変わらない。