小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

247 犬と10の約束 戸惑う理由

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いま、犬と飼い主の心の通い合いを描いた映画「犬と私の10の約束」が上映されている。映画や原作の本によると、犬を飼うに当たって10の戒め・注意があるという。そのやってはならない戒めの一つを私は破ってしまい、しばらくの間、犬の顔を見るのがつらかった。 私が破った約束は「私が言うことをきかないときは理由があります」という点だ。最近、わが家の飼い犬の雌のゴールデンレトリーバーhanaが、なぜか散歩を嫌がる。 家を出て小と大の排せつをする。すると、いつも散歩に出る裏門を目指して歩き出し、あげくは座り込んで言うことをきかない。朝夕とも10日まえほどから、こうした状態を続ける。 まだ5歳なので、老け込む年ではない。なのに、歩くことを嫌がるのだ。毎朝6時に起きて、散歩をする私は、時にhanaが座り込むと、リードを力一杯に引っ張り、「ゴー、ストレート」と声を掛け、無理に歩かせたりした。 それでも歩こうとしないときには、リードを外して、自分だけがどんどん先に行く。すると、hanaは仕方なく、とことこと後ろについてくるのだ。 先日の朝もそんな繰り返しだった。そしてリードを外しても歩こうとせず、道端の草むらに顔を突っ込んだままの状態が続き、つい私はhanaの尻をたたいてしまった。 家に帰ってから、娘に「もう明日からはhanaの散歩はやめた」と宣言した。それを聞いた娘は涙を流しながら、私を責める。「何か理由があるのに」と。そう、言うことをきかないのは、何か理由があるはずなのだ。 実は一番hanaを大事にしていて、いつも夕方の散歩を担当している妻が10日ほど前に階段から足を踏み外して左足の指を骨折し、散歩ができなくなった。hanaが散歩を嫌がる理由はこれが原因の一つと思った。 だが、念のために娘と妻が連れて行った獣医医院で「左足の股関節がよくない」と診断された。獣医師は「CTを撮るほどではないが、ゆっくりとした散歩とダイエットが必要」と説明した。さらにもう一つ「この子は賢くて、人の顔色を見ているみたいですね。ちょっと、ずるいなー」と笑いながら付け加えたという。 この犬種は、頭はいいが股関節を痛めるという弱点がある。hanaもそのDNAを受け継いだのだろうか。夜、酒を飲んで帰った私を迎えた彼女は私の手をなめながら、なにやら「グウグウ」と言い続ける。「お父さん、散歩の時も優しくしてください」と言っているように私は受けとめた。 映画の中で、けなげな「ソックス」という役を演じた犬はわが家の飼い犬と同じゴールデンレトリーバーで、しかも「ソックス」とhanaはうりふたつといってもいいほどよく似ている。犬を飼わない人から見れば、犬なんてみんな同じ顔だろうと思うかもしれないが、犬でも顔つきはさまざまなのだ。 映画の犬は10歳で年老い、死んでいく。短命が犬という種類の宿命なのだ。何年か後には、hanaとの別れも覚悟しなければならない。「10の戒め」をあらためて読み返し、そう思った。