小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

180 疲れないための読書法 頭を休める本を選ぶ

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読書の秋である。書店に入って、これはと思う本にめぐり合ったときのときめきはだれでも味わったことがあるだろう。そんな本に最近出会い、いま読んでいる。この本については、次の機会に記すとしよう。きょうは、疲れないための読書法についてのうんちくである。 というと、何か秘策があると思うかもしれない。実は、そんな秘策は全くない。ではどうするか。仕事のため、教養を高めるため、面白い小説を読むため、時間をつぶすためと読書の方法はさまざまだ。これ以外にも読書をする理由はあるだろう。 目が悪くなってくると、読書から次第に離れていくのが現実だ。ましてや、難しい本は手に取ることはなくなる。だが、習慣とはおそろしい。いつも本が近くにないと落ち着かないのだ。そして、無理をしても次々に本を読んでいく。でも、1ページを読んで、読むことをやめてしまう本も少なくない。もったいない話だ。頭が疲れ、小難しい本に手が伸びないときにはどうするか。 エンターテイメントに限る。物語性に優れ、例えば電車の中で読んでいて、つい降りる駅を乗り過ごしてしまうような、面白い本を読めばいいのである。これまでは前置き。そうした本を連続して読んだ。 関西旅行の新幹線で読んだ「地図にない国」(川上健一著、双葉文庫)と、面白さはどうかと、疑問を持ちつつ思いつつ読み進めた「TENGU」(柴田哲孝著、祥伝社)の2冊だ。川上は「翼はいつまでも」で坪田譲治文学賞を受賞した作家だ。寡作なのだが、彼の作品は青春を題材にしていて爽やかな読後感がある。地図にない国も同様だった。
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スペイン・バスク地方の牛追い祭にやってきたプロ野球選手ら個性あふれる日本人と祭のかかわりを描いた作品は、これまでの川上の一連の作品より登場人物が大人びている。しかし、地図にない国は、どこかにくめない人たちを川上自身が楽しんで書いたように思えた。 これに対し、柴田のTENGUはミステリーであり、群馬の殺人事件に、伝説の「天狗」を絡ませながらベトナム戦争や人類の祖先であるネアンデルタール人を登場させ、作者の発想の豊かさを感じさせる作品だ。主人公の元通信社記者や彼を取り巻く人たちもうまく配置されている。柴田は戦後史に残る「下山事件」を描いた前作で日本推理作家協会賞を受賞した。今回の作品もベトナム戦争という歴史に残る戦争を題材に取り入れ、意外性のある結末になった。 2つの作品とも、頭を休めるには十分すぎるほど、楽しんで読むことができた。その結果、読後には今度は難しい本に挑戦するかという気持ちさえ抱いたのだった。だが、次に選んだ本は、実は童話なのである。