小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

171 面白い小説を読む楽しみ 辻原登「ジャスミン」

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中国・上海と神戸を舞台に、スケールの大きく読み応えのある小説を読んだ。登場人物も魅力があり、男女の愛や日中の歴史、さらに阪神大震災も登場して、物語がどのように進むのか、小説を読みながらハラハラドキドキするという、久しぶりの興奮を味わった。 辻原の作品は、以前「翔べ麒麟」を読んだことがある。うまく時代をとらえ、スケールが大きくてこれぞ小説だなと思ったものだ。この作品も同様だった。 あらすじは、以下にネットの販売用コピーを紹介する。 「父の失踪の謎を求めて降り立った上海で、運命の女と出会う。女は中国政府に追われる身。「女と良心の呵責を両腕に抱いて生きる」とうそぶいた父をなぞるかのように、危険な恋の扉が開かれる。逃避行の挙句の別れと再会。大胆にして甘美、華麗なロマンスは国を越え、政治に逆らって、もっとも美しいラストへと突き進む。」 本屋さんの評価では「何を言いたいのかさっぱりわからない」との書き込みがある。こういう見方をする人が本屋さんをやっていると思うと、残念だ。読めば読むほど辻原作品は、胸に迫るはずなのだから。 本屋で偶然手にして、題名や作者の名前に惹かれてつい購入し、読み始めてがっかりする作品が少なくない。この作品は、出張に行った際、持って行った本を飛行機の中で読み終えたので、旅の途中で本屋に飛び込み、慌てて買った。夜、宿に帰って読み始める。すると、やめられなくなったのだ。 登場人物がなかなか面白い。主人公の腹違いの妹が阪神大震災で亡くなるが、その遺体の収容作業に若い宅配便の運転手が協力するというエピソードもその一つといえる。ラブシーンの描き方がうまいのもこの作品をひき立てている。 旅の楽しみの一つは、私にとって飛行機や新幹線の中での「読書」である。次はどんな本と出会うか。