小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

163 首相の辞め方 早期退陣だけが実績

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  昔から「斜に構えた人だ」とよく言われた。物事を素直に見たり聞いたりすることが嫌いであることが顔に表れるからだろうか。それは、私が長い間携わった職業を支える「基本」にもなった。 世の中の動き、出来事にいつも頭から信用せず、疑ってかかるという習性がそのような姿勢になったようだ。世の中が動いていると実感するできごとは、きょうの安倍首相の突然の辞任表明だ。 (テレビの映像より) テレビで辞任を表明をする安部首相を見て、私は斜に構えて「何かあるな」という疑念を抱いた。別に斜に構えなくとも、だれでも不思議に思っただろうが。 それはそうだ。APEC後の記者会見、11日の国会での所信表明では「職を賭す」という表現で、今後の政局運営の決意を語ったばかりだった。与謝野官房長官は、体調の悪化という見方をしたが、そんなことはあり得まい。民主党の小沢代表に党首会談を断られたからというもの唐突過ぎる。 体調の悪化に精神的なものが入るとすれば、なるほどと思う人もいよう。しかしそんな感じは受けない。首相の資質は精神的に人一倍強靭でなければならない。そうした強い精神力がない政治家が首相になったとすれば、日本の政治家の水準は低下したものだ。 毎日新聞は、夕刊で週刊現代が遺産相続をめぐる脱税疑惑の取材を進めていたと報じていた。父親の安倍晋太郎氏から多額の相続を受けながら、自らの政治団体に寄付する形で相続税の支払いを免れていたという疑惑だそうだ。 この記事が近く発行される週刊誌に掲載されるとしたら、安倍さんには大きな痛手である。もちろん、一番頭の痛いのは、テロ特別措置法の延長問題で、参院で多数を占める民主党が真っ向から反対の態度をとっている以上、国会審議は難航が必至だ。 内閣支持率も低迷したままだ。APECの会合で訪問した豪州でひいた風邪も思わしくない。第二次安倍内閣が発足したばかりというのに、政治とカネの問題で遠藤農水相がまた辞任した。 安倍さんの頭には「四面楚歌」という言葉が浮かんだのに違いない。党内ではだれも頼る人がなく、国民からはそっぽを向かれ、味方は夫人だけという状況に追い込まれていた。こうしたさまざまな「複合的な要因」が重なって、きょうの辞任表明になったのではないかと思ったのだ。 安倍政権が発足してちょうど1年。短命内閣だった。国際的には日本のイメージダウンになるが、国民にとっては早くやめてもらってよかったのではないか。 安倍さんは国民生活を安定させることには全く寄与しなかった。だから、他の力量ある政治家にバトンをタッチして、沈みつつある日本丸を安定航行に舵を取り直してもらうには、この辺が潮時だったのではないかと思う。 早くやめたことが国民のためによかったと、妙なところで安倍さんを評価するのである。