小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

138 中国残留孤児支援 絶妙の政治のタイミング

うがった見方をすると、今回の永住帰国した中国残留孤児の生活支援をめぐる集団訴訟の和解は、自民党選挙対策の一つではないか。それでなければ、こんなに急いで結論は出なかったはずだ。

集団訴訟では、神戸地裁で原告が勝訴したのみで、ほかは請求棄却という判決が下されていた。それだけに、今回の安倍首相の決断は、小泉前首相のハンセン病国家賠償訴訟の原告勝訴の熊本地裁判決に対する控訴断念の前例にならったもので、政治決断の結果だと思われる。

このとき、小泉首相は「ハンセン病問題の早期かつ全面的な解決を図りたいと思いました」と述べたが、政治家としての弱者に対する思いが伝わり、小泉人気に拍車をかけたものだった。

中国残留孤児問題がクローズアップされたのは、孤児が集団で肉親探しにやってきた1980年以来のことである。その後、肉親が判明しなくとも、日本人孤児という証明さえあれば、永住帰国ができた。

しかし、中国で長い間生活した孤児たちは、帰国後言葉の壁に当たって、思うような仕事を得ることができず、苦しい生活を強いられた。

その結果、2002年12月に帰国後の生活支援を怠ったとして孤児の9割にあたる約2200人が国に損害賠償を求める集団訴訟を起こしたのだ。

政府が提示した支援策は3分のしか支給されていない国民年金を満額の6万6000円支給し、生活保護に代わる給付金制度を創設して単身世帯で月額最大8万円を上乗せすることによって、最高で月額14万6000円を支給するというものだ。

大幅な収入増となることは間違いなく、これまで苦労し続けた孤児たちには朗報といえるだろう。

だから、原告代表の池田澄江さんのコメント「とてもよい支援策となりうれしい」は素直に受け取っていい。

だが、時期が時期だけに朗報だと喜んでいいのか。今月は参院選がある。見るからに選挙対策の感じが強いのである。政治はタイミングだ。失敗続きの安倍政権にどれほどの得点になるか。