小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

112 東京五輪の映画を見る 物流博物館にて

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東京・高輪に物流博物館がある。JR品川駅高輪口から歩いて5分の高台に日本通運が出資して創設した小さな博物館だ。認知度はいまひとつらしく、平日の午後、入場者は私1人だけだった。 物を運ぶと一口に言うが、戦後の歴史を考えても大きな変化がある。引っ越し、宅配便、あらゆる製品の送達。それを担った貨物列車やトラック。この博物館は物を運ぶをテーマに、映像を含め、様々な展示物でその歴史を教えてくれる。 係員に頼んで、大画面の映画を見せてもらった。1964年の東京五輪の際、どのようにして五輪関係の荷物を運んだのかをテーマにした記録映画である。約50分のモノクロ映像は東京五輪の舞台裏を多角的に映し出す。 横浜に船便で届いた五輪用のボートなどの品々、羽田空港にも航空機で乗馬競技用の馬が世界各国から到着する。それを待ち構えて、深夜トレーラーや大型トラックが東京都心をゆっくり走る。 五輪が始まって、円谷選手が3位に入賞した男子マラソンの前日には、交通標識が短時間に取り付けられていく。マラソンが終わると、その撤去作業だ。 閉会式の後、国立競技場の跡片付けも急ピッチで進められた。その裏方作業を追った映画は、感動的だ。こうした縁の下の力持ちがあったからこそ、東京五輪は成功裏に終わり、これを機に日本経済の高度成長が始まったのである。 トラック輸送の発達とともに公害問題も発生した。いまはディーゼル車の排ガス規制が厳しい。映画を見終わって、物流の歴史を考えた。 帰ろうとすると、廊下には「風呂敷」の展示コーナーがあった。これも物を運ぶ日本伝統の品物である。だが、現在では風呂敷を持つ人を見かけることは日常的にもほとんどない。 だから、子供たちは風呂敷をみて何に使うのか分からないはずだ。裁判に向かう検察官は、関係書類を紫の風呂敷に包んで法廷に持ち込んだが、いまはどうしているかは知らない。 物流博物館のような、小さくとも特徴のある博物館は全国に数多い。休日にはふらりと足を運んでも無駄にはならないだろう。(07.4.16)