小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

85 松坂の初登板中継 NHKの英断あるいは無駄遣い

アメリカ大リーグ、レッドソックスに移籍した松坂大輔投手が日本時間3日朝(現地2日)の大学チームとのオープン戦に初めて登板した。この模様を、NHKBS放送で生中継した。まさかと思ったが、NHKはやったのである。

野球が好きな人は「英断」と思ったかもしれないし、一方で「何だこれは」とまゆをひそめた人がいたかもしれない。私自身は野球好き人間なので、松坂が大リーグで通用するかどうかには興味を持っている。しかし、それにしてもやりすぎではないかと複雑な気持になった。

たかが(というのは失礼か)、アマチュアの大学チームとの練習試合ではないか。いくら松坂が「怪物ピッチャー」だからといって、生中継するほどのことではない。スポーツニュースで簡単に報じればいい。

なぜこんなことを書くかといえば、総務省NHK受信料の支払い義務化を今国会に提出する放送法改正案の中には盛り込まない、というニュースが報じられたことが頭にあるからだ。総務省は、支払い義務化法案の前提として、現在の「受信料の2割の値下げ」をNHKに求めていたのである。

しかし、NHKの橋本会長は「早期の値下げはできない」という態度を崩さず、総務省が受信料義務化法案をあきらめたというのが背景だ。

支払い義務化法案の必要性があるかどうかは別にして、どう見てもNHKの受信料は高すぎる。高齢化社会によって、老人世帯、独居老人が増え続けている。そうした人々には間違いなくNHKのいまの受信料は負担である。

受信料の値下げができない事情をNHKはいろいろ理由を挙げて説明する。だが、どうみても、NHKの経営努力の姿勢が私たちには伝わってこないのだ。

松坂の練習試合中継だってそうだ。多額の経費(貴重な受信料の一部である)を使ったのは間違いない。松坂のアメリカでの様子を見たい視聴者は多いのだから、練習試合とはいえ、放映する価値は十分にあるとNHKは考えているのだろうが、やはり疑問符がつくのだ。

その感覚は、、視聴者が見たいと思っていることにはどん欲に何でもやるという姿勢のワイドショーに似ている、といったら民放の関係者は怒るかもしれない。「私たちはNHKのように、ふんだんにお金は使えない」と。しかしこちらは、関西テレビの「あるある大事典」のような、やらせが相変わらず横行する世界だ。

かつて評論家の大宅壮一は「テレビの普及によって、日本人1億人がすべて白痴化する」と予言した。そう思い込んだ知識人も多かった。幸か不幸か、この予言は半分しか当たらなかった。しかし半分は当たり、日本人の読書の習慣は次第に減りつつある。

その結果ものを考えることが少なくなり、刹那的な生き方につながる心配がある。凶悪犯罪の続発はこうした要因がなきにしもあらずといえるのではないか。

松坂の練習試合の中継から、私の思いは飛躍した。賛否両論はあると思う。異論は少ないかもしれない。いずれにしても、NHKは土曜日の朝に話題を提供したのである。