小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

279 それぞれの人生「畑・歌・本」と

 周囲には人生経験豊かな面白い人たちがいる。たまたま、最近知り合いになった2人と酒を飲んだ。同じ時代を歩んだはずだが、2人の話を聞いて私に比べてゆとりを持って生活を楽しんでいると思ったものだ。

 先月、団塊世代を対象にした広告会社マッキャンエリクソンの「定年後奥さんを頼りにする依存夫と、そうではない自立夫の割合は6-4だった」という調査結果を紹介した。2人はこれに当てはめると、自立夫の代表だろう。

  1人は損害保険会社、もう1人は総合商社に勤務していた。仮にAさんとBさんと呼ぶ。Aさんはいま、自宅前にある畑で野菜を作る日々を送っている。季節ごとの野菜を植えつけ、雑草を取る。手入れをすればするほど、野菜の育ちはいい。

  現役時代は遠距離通勤で奥さんに心配をかけた。そのお返しにいまは何でも率先してやる。日常の買い物や炊事ももちろんだ。だから、けっこう忙しいらしい。

  一方、Bさんは「海外にも十分行ったし、やりたいことは会社ではやり切った。あとは自分の人生を考えたかった」と、定年直前に商社をやめた。やめた後、何をやるかを現役時代から考えていた。そして行き着いたのは「イタリア歌曲」だった。イタリアが好きなBさんは、奥さんも巻き込みいまはイタリアの歌を仲間と練習し、隔月で発表会をやっている。私はまだ彼の歌を聞いたことはない。手帳には発表会のスケジュールが書いてある。

 2人とは全く違う知人のもう1人を紹介する。彼は間もなく現役を離れる。彼の夢は図書館の司書資格を取り、図書館のボランティアをすることだ。話を聞いて驚いたが、本の好きな人間には理想の姿だと納得した。友人は司書資格を取るために、放送大学で勉強をするのだという。

  ここで紹介した3人は、現役時代の仕事も個性も全く違う。しかし、共通するのは「生きる目標」を持っていることだ。そんな友人たちの存在は私を力づけてくれる。