小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

223 ひめゆりの塔にて 恥ずかしい日本人男性

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 ことしは戦後63年。戦争を知る世代が少なくなりつつある。最近、沖縄・糸満市の「ひめゆりの塔・平和祈念資料館」に行った。3回目だがいつも粛然とする。それは、63年前の悲劇を思えば当然なことだ。しかし、ここで残念な光景を見てしまった。

 ひめゆりの塔は多くの犠牲者を出した沖縄戦のシンボルともいえる。うら若い女子学生が次々に死んでいった。映画や小説にもなり、原爆で被災した広島、長崎とともにその悲しい事実はいまなお語り継がれている。

 これまでは個人的にひめゆりの塔に祈った。今回は20数人の中国の学生たちと行動を共にした。学生たちは、沖縄は美しい海があるとは知っていたが、沖縄戦についてはほとんど知識がなかった。それはそうだろう。日中戦争のことは詳しく教わっていても、沖縄戦の話は中国の歴史教科書にはないはずだ。

 それでも、ガイドの説明を聞き、資料館の展示を見て「戦争は悲しい」という感想を漏らす学生が多かった。ひめゆりの塔は、戦争の歴史を学ぶ神聖な場所なのである。 なのに、中国学生の前で日本人の男が醜態を演じたのを見てしまった。女子学生らが命を落とした第三外科壕の跡に立つ慰霊碑近くで40歳前後の男がゲーゲーやり出したのだ。 

 二日酔いなのか、体調不良なのかよく分からないが、男の顔は真っ青だ。中国の学生たちは「あれは二日酔いですか」と私に聞く。風邪にしてはおかしいと思った。なぜこんなところで吐くのだろう。 男はしばらくすると、入り口まで移動し、またゲーゲーやっている。単独行動で仲間はいないようだ。それにしても、この醜態は何だと怒りに似た感情が湧いた。

 帰りの飛行機で、同じ男が騒いでいた。気持ちが悪いと何度もトイレに駆け込み、客室乗務員を困らせている。帰り間際に、彼はひめゆりの塔でも同じような行動をしていましたと知らせると、「実は飛行機の中で騒ぐのは2回目なので、どういうことなのか調べてみます」とチーフの客室乗務員。

 ひめゆりの塔の前で、あんな醜態を演じる男が出現するとは。日本国民の戦争への認識が徐々に薄れていることの証なのだろうかと私は思った。