小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

92 渥美清の俳優魂 男はつらいよラスト48作目

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 いま、NHKBSで連夜、映画「男はつらいよ」シリーズを放映している。視聴者の人気投票で順番にやっている。16日がベスト1の放映日だ。選ばれる作品は何作目か、おおよその見当はつく。 13日に放映された人気4番目の作品は、シリーズ最後となった48作目だった。95年に制作された「寅次郎 紅の花」だ。

 奄美大島を舞台に、寅さんとその恋人リリー(浅丘ルリ子)がのんびりとした生活を送っているところに、恋に破れた寅さんのおいの光夫がやってきてきて、話は盛り上がっていく。 寅さんを演じた渥美清は、この映画の撮影が終わってから8ヵ月後にこの世を去った。撮影中、既にがんに侵されていた渥美は、精神力で撮影に臨んだという。撮影の合間に、倒れこむように休息をとる姿を、追悼の特別番組で見たことがある。

 この映画で寅さんは、大震災に見舞われた神戸に行き、神戸っ子を励ますが、実は自分を励ましたかったに違いない。それほどに、48作目に残された渥美の映像は痛々しい。 だが、山田洋次監督は渥美がそんなに急にこの世を去るとは思ってもいなかったのだろう。彼は、NHKの取材に応じて49作目の構想を練っていたことを明かしている。  

 今となっては幻の作品である。 室生犀星の小説「兄いもうと」をモデルにしたという。舞台は高知。寅さんはお遍路姿で登場する。寅さんと親しいきょうだいがいる。兄が西田敏行、妹が田中裕子。兄と妹の2人暮らしの家で、妹が妊娠しているのが分かるが、妹は死産する。兄は妹の相手を寅さんと間違え、寅さんと大げんかするが…。こんな構想だったと山田監督は語っていた。

男はつらいよ」は、難しいこととは関係なく、庶民あるいは大衆といわれる国民大多数の共感を呼ぶ娯楽作品だ。何のてらいもなく日本の姿を映し出した。それが48作という長い作品になったゆえんであろう。 それを支えたのは渥美の「俳優魂」だった。それにしても、48作目のラストシーンの渥美の姿は正視できなかった。