小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

88 少年がいない国  ある医師の解説より

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 医師であり、エッセィストの海原純子さんを時々テレビで見かける。テレビで訳知り顔で、コメントを話す人種はあまり信用できないと常日ごろ思っている。彼女もその1人だと分類をしていた。

 前に読んだ関口尚の作品がよかったので、彼のデビュー作を買って読んでみた。「プリズムの夏」である。映画の好きな高校3年生の男子が映画館のチケット販売の窓口の女性に片思いし、たまたまその女性がインターネットで自殺予告をしているのを知って、助けようとする「ひたむきな青春」を描いた物語だ。

  心の病に侵されつつある年上の女性への思いが伝わる作品である。この作品の解説を担当したのが海原さんだ。解説の冒頭で海原さんは「このごろ街に少年や青年がいなくなった。老人みたいな若者が多いのだ。いや、老人より年とった感じの若者が増えている」と書いている。

  海原さんは人間の性格を形成する要素として5つを挙げる。

 CP(Critical Parent)厳格な父親 父親的要素

 NP(Nurturing Parent)養育的な親

 A(Aduld)大人

 FC(Free Child)自由な子供

 AC(Adapted Child)順応した子供

  海原さんによると、現代はFCの子供がいなくなり、AとACが多い若者が増えたというのである。

 それは「自分の心や感情をありのままに表現することをおそれ、周囲にあわせて自分の感情をおさえたり、かくしたりしたり、ものごとを計算し、損得を考えて行動する若者が多いということなのだ。(中略)心の中はイライラでいっぱいでちょっとしたことで爆発、ということになるのだ」と海原さんは書く。現代の若者による衝動的、刹那的な犯罪は、こうした背景があるのだろう。海原さんの指摘は鋭く、彼女への見方を変えたことを告白しなければなるまい。

  京都の学習塾で塾講師が小学生を刺殺した事件の判決公判がきょう京都地裁であり、塾講師の大学生に懲役18年の判決があった。この塾講師もACの要素が強かったようだ。

  こうした社会状況をどう変革していくか。日本を少年のいない国にしてはならないのである。関口の小説に出てくる高校生は自由な精神を持った少年そのものであり、ACではない。